窮地

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はぁ 「ほな、何?水瀬の知り合い?」 そしてあたしの1番聴きたくない名前を、紗羅ちゃんは呟いた。 「あたし、サトルの幼馴染み……」 それを聞いて全てが繋がった。 昨日宿で、好きな人のために生きてるって言った相手…… それがサトルや。 だからあの時、嫌な感じがしたんや。 そうか サトルの幼馴染みか。 「ようあたしの前で、その名前出せたな」 無意識に紗羅ちゃんの胸ぐらを掴んでいた。 苦しそうにするのを、無表情で見下ろしていたと思う。 「なに?あの男にあたしに近づいてなんかしろ言われたん?」 「く、苦しい…」 「苦しくしてるからな?答えて。全部。サトルと関係あるなら話し変わってくる」 ええから答えろ。 しっかりと紗羅ちゃんの身体を持って、壁にもたれかけさせて座らせた。 話せとそう圧力をかけた。 そして紗羅ちゃんは、ポロポロ涙を流し、話し出した。 あたしはこの状況で嘘はつかないと思い、その話を信じた …… 「あたしとサトルは孤児なの。同じ孤児院で育って、それぞれ里親に引き取られてからも、よく会ってたの。あたしはサトルが好きだった。 サトルは……里親に恵まれず、色々なところを転々としていたの。その頃から少しグレだして、女遊びも酷くなって……あたしはよく分からないけど、スコーピオンていう犯罪集団に入ってるって聞いてた」 待って?孤児なん?サトル。 どうりでなにも、情報がないわけや。 「で、まずは、紗羅ちゃんはなんであたしに近づいて拉致ってこんなことしてんの?」 そこやろ。まず サトルの話よりも、今は紗羅ちゃんの話し。 「信じてもらえないかもしれないけど、出会ったのも偶然。助けてくれた時、わざわざ家まで来てくれた時……本当に嬉しかったの」 え? 「本当にあたし孤児で、友達いなくて…ずっと寂しかったの。杏ちゃんみたいな優しい…友達ができるって嬉しかったの。本当に……杏ちゃんと友達になりたかった」 目の前で涙を流して話す紗羅ちゃんは、出会ったあの頃のピュアな紗羅ちゃんだった。
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