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中庭に面した一階の渡り廊下。
生徒が絶え間なく行き交う中で、焦がれた人を見つける瞬間というのは世界がわっと華やぐような、光りだすような至福の時間だとわたしは思う。
スラックスに両手をつっこみ、アイロンがしっかりとかけられた白いシャツにはえんじ色のネクタイがかけられている。
黒くて聡明な瞳。それから長いまつ毛に、すこしだけ目にかかる前髪。黒い髪は白い肌を強調させるようで、シャープな輪郭は無駄な贅肉を感じない。
それでいてすらりと伸びた手足は周囲と比べひとつ飛び抜けていた。ほかの男子と違い、わちゃわちゃと騒がしくなく、大人びている彼の雰囲気は、どことなくガラス細工のような儚いものに見えた。
どきどきと、鼓動がうるさくわたしの胸を叩いていた。心拍数が上昇して、それを隠すように一歩一歩と彼との距離を縮めていく。
すっと手を伸ばせば届く距離。消えてしまいそうな声だって鼓膜を震わせてしまうぐらい近くて、彼という存在を一番近くに感じるこの時間が、わたしにとっては限りなく大切な時間だった。
視線をあげることは出来ない。こんなにも彼と近くなってしまうと、目が合ってしまうんじゃないかと思ってしまうけれど、そんなのはいつも杞憂に終わる。彼はわたしのことを見てもいないのに、そんな心配ばかりが過ってしまう。
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