ミモザの春を溶かして

10/20
前へ
/20ページ
次へ
「でもなんかへらへらしてるっていうか、意味なく笑ってるのってちょっと不気味っていうか」  教室の扉の一歩手。ずきりと軋んだ心。息を吸うことができなくなって、氷水を頭からかけられたみたいに全身が冷たい。  瞳はなにも言わなかった。いつも、どこにいても、わたしをかばってくれていた瞳の声はなにも聞こえてこない。 「わかる、なんかいつも笑ってるよね」 「面白いことなにも言ってないのに」 「瞳と話したいだけなのに、なんであの子もついてくるんだろう」  どろりとした悲しみがどっと押し寄せてくる。その場から逃げ出したいはずなのに、逃げ出すことができない。  笑っていれば、気分を害すことはないと思っていた。必要とされていないことは痛いほどわかっていたから、だからせめて笑うようにしていれば、だれかが笑って話しかけてくれるんじゃないかと思っていた。  でも、そんなのは間違いでしかなかった。  わたしは、ただただ必要とされていない人間で、笑っていることさえ不気味だと思われてしまっていた。 「そういうの、嫌だな」  なにより苦しかったのは、瞳が、それでもなお、私の味方でいてくれようとしたこと。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

155人が本棚に入れています
本棚に追加