ミモザの春を溶かして

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「あ……わたしは、ちょっとトイレ」  引きつる笑顔をなんとか持ちこたえる。逃げるようにその場から消えては、騒がしい廊下へと飛び出した。  昔から、わたしという存在はいつも、邪魔でしかなかったように思う。  瞳とはなにがきっかけで仲良くなったのか覚えていない。でも、自然と友達と呼び合うような仲になった。群れたがらない瞳が、わたしだけには心を開いてくれたことがうれしくて、瞳さえいればいいと思っていた。  つま先を強く押し出すように、前へ、前へと、突き進んでいく。口にしたトイレを横切り、目的もなく彷徨い続けるこの休み時間は、どうしても苦痛で仕方がなかった。  瞳は好意的にわたしと仲良くしてくれるけれど、瞳と仲良くなりたいと思う女の子はたくさんいた。小学校のときも中学のときも、そして高校に上がっても。瞳はいつも人気者だった。  人気者の隣にいれば、自分も人気者になるのかといえば、答えは圧倒的にノーでしかない。
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