ミモザの春を溶かして

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 手を伸ばせば触れてしまえる距離だった。でも触れてしまったことは一度だってなくて、いつもただ、すれちがうだけで精一杯だったのに。 「二胡?」  瞳がのぞきこむようにして見つめてくるものだからハッとして、大袈裟に「い、行こう!」と廊下を走り切る。  事故だったとしても、彼と一瞬でも触れてしまったことがどうしようもなくうれしくて仕方がなかった。  この頬のほころびをどうしたらいいかわからなくて、ただ足元を見て、もつれそうになる足先に意識を集中させた。  ふと、手の甲をもう片方の指に触れてみる。  触れた感触がずっと残っていて、心が久しぶりに歓喜で満ち溢れていた。 *** 「ねえ、麻木さんとどうして仲がいいの?」  昼休み。担任から呼び出しを受け、職員室から教室に戻ろうとしたときのこと。  中から聞こえてきたクラスメイトの声に足を止めた。 「え、どうしてって……友達だから?」 「でも麻木さんって正直よくわかんないっていうか」 「それは多分、二胡のこと知らないからだよ」  いいこだよ、と。瞳はよくわたしのことをそうフォローしてくれる。  あんな質問を投げかけられるのはしょっちゅうで、その度に瞳は、なんてことはない顔でけろりと答えてしまう。  芯が強くて、ぶれなくて、わたしを唯一、わたしだと認めてくれる存在。
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