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「あら下地さんお帰りですか、野川に恥を掻かせないよう気張ってくださいね。只酒喰らっていればお給料いただける立場のあなたと宅は違うんですよ」
野川の妻が玄関先で言った。一礼する下地が顔を上げないうちにドアを閉めた。
「チキショウ」の連発。駅まで何度口に出したか分からない。自宅アパートに戻る。酔って鍵がうまく差し込めない。ガチャガチャしているとドアが開いた。
「二人共寝てますから静かにして」
妻の洋子が静かに言った。下地の顔を見れば不機嫌なのが一目瞭然。
「チキショウ」
吐き捨てて靴を脱いだ。
「チキショウ」
隣との間仕切り壁を拳で叩いた。
「止めてください、壁は薄いから隣に響きますよ」
「うるせい、面白くないんだよ」
また叩いた。
「お隣やくざって噂よ。知らないわよ」
「やくざが恐くて壁が叩けるかってんだ」
三度目にベルがなった。
「お隣よきっと、こんな時間に来る人いないしあなた出てくださいよ」
「どうして、お前が出ろよ、外は俺、家はお前だよ」
いつからか情けない男になった。妻の洋子が覗き穴を見た。驚いてすぐ下がった。目が覗いていた。
「どちら様でしょうか?」
返事はなくベルが鳴った。
「どちら様でしょうか?」
返事がないのでそのままにした。
「誰?」
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