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「確かにあいつは優れてる、でも裏切らないかな、うちの派閥はあいつで持っていると言っても過言じゃない」
「派閥派閥って先輩、こんな小さな代理店でおかしいでしょ」
「お前はいいさ、俺はそうはいかないんだ、野川係長の出世に乗り遅れちゃいけないんだ」
下地の逼迫した表情に恐怖さえ感じた。
「先輩、考え過ぎですよ、身体壊すよ。吉田と協力してやりますから、ただ時間がないから出来具合の評価は勘弁してください」
木下は早速吉田を呼び出した。その晩も係長の野川に呼び付けられた。野川の家は会社から自宅と反対方向、一時間で帰れるものが二時間掛かってしまう。
「どうだ企画書は?」
リビングに通されて第一声がこれだった。お疲れとかご苦労とか労い紛いの声もない。野川の長男は一流大学の三年生、父親の前で立っている下地を見て笑っている。野上の妻が長男の耳元で何か囁いている。
「お疲れ様です」
長男が吐き捨てるようにリビングから出て行った。電話でも五分で済む用を一時間掛けられた。終電にやっと間に合った。帰りにコンビニでワンカップを二本買って一気飲みした。自宅アパートの見える公園のブランコに座って揺すった。『死にてえ、死にてえよ。死んで生まれ変われるなら人と接しない、そうだカラスがいい、カラスになって糞を掛けてやりてえ』おもいきりブランコを漕いだ。
「けっこう高く上がるもんですね」
隣のブランコに男がいる、下地が前へ上がった時に真後ろに上がっている。黒い服に焦げ茶色のハンチングを被った男が楽しそうにブランコを漕いでいる。
「いやあ楽しい、初めて乗りましたよブランコ、こりゃ楽しい」
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