輪廻『虚礼』

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 そんな余裕はない。今頭にあるのは西木課長率いる派閥との駆け引き、これに負ければ死んだも同然。生きていても恥をさらすだけ。 「どうです、その派閥争いの結果待ちでは、私は急ぎませんし、もし勝つようなことがあればまた考えも変わる」 「俺の将来読める?」 「いいでしょう、額を突き出してください、ああっ、油汗がひどい、拭き取ってください、触るの気持ち悪い」  下地はふて腐ったが言われたように濡れタオルで額を拭き取った。 「少し酔いますよ、酒酔いじゃなくて船酔いに近い」  金原仙人は下地の額に人差し指を当てた、天中から山根までゆっくりと滑らせた。皺の間もしっかりと読み取る。指を離すと下地が『うおっ』と吐き気をもよおした。下地の天寿、51年241日18時間36分29秒の残りがある。 「どう?」 「普通にある、日本人男子の平均寿命」 「どんな具合?」 「それを教えると人生が狂い寿命が変わります。神に逆らってしまう」 「いいんだ、教えて欲しい、精一杯生きるから」 「これは違反ですけどまあいいでしょう。残り51年241日18時間35分11秒、今変わって9秒」 「為替の変動生放送みたいな言い方」  下地は安心した。それなら仕掛けてやろうと思い付いた。負けてもそこまで生きれるなら問題はない。 「言っときますが大きな変化を与えると保証しませんよ」  下地は笑って頷いた。 「それじゃそれまで。奥方に礼を言っておいてください」  下地が立ち上がり玄関まで送ると金原仙人はドアを素通りして消えた。酔いのせいだと首を振った。 「おいどうだ企画書?」 「吉田がやってます」  
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