輪廻『虚礼』

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輪廻『虚礼』

 会社には派閥がある。大企業のそれは一見華やかにすら映る。しかしそれは最上層の祀られる立場にあるごく一部。層を一段ずつ降りるごとに華麗は陰湿になりその度を深めていく。最下部はもう露骨な化かし合い。人の様相を呈しているが心は鬼以下。ひとつクリアするごとに層を一段上がることが出来る。そのためには鬼にならなければならない。だから日々虚礼を続ける。  この派閥争いは中小企業にもある。最上層は無い、しかし最下部は大企業のそれと変わらない。醜い派閥争いが続いている。 「係長、聞きましたか?中国進出の件」  係長野川の自宅マンションで飲んでいるのは入社十二年目の下地である。 「ああ聞いてる、計画書も見た。駄目だよあんなの。それにまだ海外進出なんてうちの体力じゃ持たない」 「でも部長も乗り気で次の役員会に掛けるそうですよ」 「こっちには専務が付いてる。もみ消しだよ」 「でも専務も今年で退職じゃないですか。私達に乗ってくれますかね」  野川もそれは気になっていた。 「対抗案を出そうじゃないか、あいつ等は北京だな。私達は上海と行こう」 「分かりました。誰にやらせましょう、木下、あいつセンスないからな。吉田、寝返ると恐いな」 「君がやるんだよ。奴等の先鋒は君と同期の村上じゃないか。社長が向こうになびくのは村上の計画書だ。悔しいが夢のある計画を口だけじゃなくて成功させている。君は悔しくないのかね、同期に差を付けられて、私と西木が違うところは部下の出来不出来だけだ。不出来の部下を持って苦労している私に恩返しのつもりで計画書を作りなさい。おい下地様がお帰りだ」   野川が妻に声を掛けた。
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