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トイレの中で思ったこわいこと、つまりあの女の子は病気でもうこの世にはいないんだ、っていう思いはやっぱり本当だった。だって、雲の上に行けなくなってしまったってことは、ぼくにその必要がなくなったってことだからじゃない?そして、ぼくにその必要がないってことは、もうあの女の子はどこにもいないってことなんだよ。だからたぶんもうあの子は、悲しいことだけれど、天国にいるんだと思う。
でもね、でももうぼくは悲しくなんてないよ。自分でもなぜかはよくわからないんだけど、たぶんそれは、あの女の子とすごしたことでぼくがちょっぴり大人になった、ってことなんじゃないかなって思ってる。
そしてもうひとつ、前とは変わったことがある。このふしぎな体けんをする前にぼくを苦しませていたいじめが、すっかりなくなったんだ。それどころか内山たちはもうぼくのそばに近よってすら来なくなった。この理由はお母さんが教えてくれたよ。お母さんはぼくに言ったんだ。
「和也、あんた最近大きくなったんじゃない?」
って。
それを言われてぼくは、次の日の体育のじゅ業でこっそり内山のとなりに立ってみたんだけれど、そしたら自分でもびっくりするくらい、せがのびていたのがわかった。体重もふえていたから、前よりひと回り大きくなっていた、ってことなんだろうね。そりゃあぼくが内山だったとしても、そんなことはだんじてイヤだけどさ、一万歩くらいゆずってぼくが内山になったとしても、急げきに大きくなったぼくに近づこうとはゼッタイに思わないさ。
こうしてぼくの、やく半年間のふしぎな体けんは終わった。ひょっとしたらこれは、なくなったお父さんがぼくにくれたプレゼントなのかもしれない。いや、そうじゃなくって、大人になる手前のぼくへの、お父さんからの「がんばれよ」ってエールなのかな。どっちにしてもぼくには、お父さんが天国からぼくのためにしてくれたことなんだって、かく信しているよ。だからぼくはもうなんにもこわくなんてない。だっていつでもこうやってぼくのそばには、強くてやさしかったお父さんがついていてくれるんだからね。
お父さん、もうだいじょうぶさ。ぼくはもう泣いたりなんてしない。だってお父さんの息子なんだからね。だからこれからは、お母さんが健康でいられるように見守ってあげてよ。もちろんぼくが幸せにしてみせるけどね。それは約束するね。
じゃあお父さん、また。ほんとうにありがとう!
(完)
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