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捕獲作戦
永世君が飛び込んで来た。
「どうかしましたか!?」
言って、奇妙な顔付きになり、たもを片手に持っている事から気付いたのか、眉をハの字にした。
私は何でもない顔をして、押し入れから降り立った。ふくらはぎが物凄く痛い。
「何か?」
「え、いや……物凄い悲鳴が聞こえたから……」
「そうですか?」
永世君は頭を掻いて、メモを差し出した。
「役場の、外来種駆除の係の電話番号」
「……」
「まさか、自分で天井裏に特攻するとは……」
クッ!そういう係があるなんて!
いや、よく考えれば、確かにテレビでもそんな課が市役所にあるような事を言ってたような気もするわね。
「ああ、ええ。ありがとう」
私はにっこりと笑ってそれを受け取った。
「急いだ方がいいかと思ったのよ」
永世君は笑いをこらえるようによそを向いてから、咳払いして口を開いた。
「せめて相談してくれれば、手を貸したのに」
それで私は思い出した。
可愛げのない女。逞しい女。ダカラ、オットニモ、ステラレタ。
「それで、そいつは逃げたの?」
言いながら永世君は周囲を見回す。
「ええ。そっちから飛んで来て、どこかに」
動物の行った方向を見ると、押し入れの上段の奥の隅に、そこそこ大きな穴が開いていた。陰になっていたせいか、注意を払っていなかったせいか、初めて気付いた。
「ああ、結構大きな穴だなあ」
「前任者の人、平気だったの!?」
「荷物を置いてて気付いていなかったのかも」
永世君はのんびりとそう言って、
「あの人、大らかだったからなあ。気付いてて放っておいたという事もあり得るな」
と笑った。
「ど、どうしよう。あ、電話」
「今日は土曜日だし、来週になるんじゃないかな」
私は眩暈がしそうになったが、ふくらはぎが痛くて正気に戻った。
布団の上を這いずり回るとか気持ち悪い。
「ホームセンターってどこにありますか」
永世君は私の顔を見て、
「車で50分行った所だよ。電車なら、駅からバスで5分のところで降りて徒歩12分くらいかな」
絶望した。
「まあ、待ってて」
永世君はそう言いおいて、支社を出て行った。
1時間後、支社の周囲に箱罠が仕掛けられ、押し入れの穴は板で完全に塞がれていた。
双子のお婆さんであるキヌさんとアサさんは、罠猟もしているらしい。
「何がかかるかの」
「タヌキかハクビシンかのう」
「ヌートリアがかかった事もあったよな」
「ああ、あれね。はく製にして小学校に寄付したんだよね」
キヌさん、アサさん、永世君、原山先生が話している。
「いろいろいるんですねえ」
私はそう言いながら、箱罠を見た。
タヌキにせよハクビシンにせよヌートリアにせよ、見た事は無い。ちょっと楽しみになってしまった。
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