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「僕は君を手放したくない。それは玩具や都合の良い淫婦としてじゃあないのだ。君を好いているからなのだよ」
男子たるものがこのような甘ったるい言葉を口に出すなど羞恥の極みだが、こればかりは仕方がなかった。実際に口にしてみると、まさに羞恥に焼き尽くされんばかりに全身が熱に浮かされいく。それでも、天宮くんを失う事を考えれば致し方ない話だ。
「それは……本当ですか?」
「ああ、本当だとも。僕は決して、嘘など言ったりしないよ」
そう言うと天宮くんは、僕の方に体を向ける。今にもその艷やかな瞳から大粒の雫がこぼれ落ちそうな程に、目の縁が湿っていた。
――ああ、なんと愛おしいのだろうか
さっきまでの羞恥心は僕の中から雲散していき、僕は天宮くんを抱き寄せて強く腕の中に閉じ込める。
「ああ、すまない。天宮くん。僕は君をこんなにまで追い詰めてしまっていたのだね。僕がもっと早くに、自分の心持に気づいていたのなら、此処までならなかっただろうに……」
天宮くんの少し冷えた体温を着物越しに感じ、僕はそっと息を吐き出す。
「こんなに冷え切ってしまって……早く帰ろう」
そう言って僕は彼の手をしっかりと握ると、元来た道を引き返したのだった。
天宮くんの部屋は夜の熱気に包まれ、少しばかし不快な蒸し暑さに満たされていた。
僕は布団を敷くと、天宮くんの腕を取ってその敷いた上に座らせる。天宮くんは居心地悪げに視線をうつむけてしまう。
「僕の心持は正直に話した。君はどうなんだね? 僕とはもう、こういった事はしたくないかい?」
僕は不安にかられ、膝に乗せている天宮くんの手を握る。
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