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余計な事を言うなと口から出かかったが、傲慢な奴だと天宮くんに思われたくないあまりに、僕は寸でのところで飲み込んだ。
包を受け取りさっさと金を払うと、ヘコヘコと頭を下げる店主を横目に店を出る。
「懇意の仲なのですか?」
隣を歩く天宮くんが、訝しげな表情で僕に問いかけてきた。
「僕ではなく、父と懇意の仲なのだよ」
僕は穏やかな口調で、天宮くんの問いに答える。
だが、内心はあの店主のあからさまなおべっかのせいで、天宮くんに余計な疑問を抱かせているのだと、腸が煮えくり返りそうになっていた。
「……そうですか。坂間さんの父上は何をなさっているのですか?」
天宮くんが躊躇いがちに、問を重ねる。やはり僕よりも目上の人間が、一介の学生如きにヘコヘコと頭を下げているのが気になるのだろう。
「父はいろいろと、事業に手を出していてね。今の書店の土地も、父が工面した事もあって懇意になっているだけなのだよ」
天宮くんは少しばかし眉を潜めると、俯いてしまう。
「どうしたんだね? 何か問題でもあるのかい?」
「……何で貴方みたいな家柄の良い方が、僕なんかに執着するのか分らないのです」
天宮くんは悩ましげな表情で呟く。僕はその様子が何とも愛らしく思えた。
「何も気に病むことはない。僕は君を本当に気に入っているのだから、心配することはないのだよ」
天宮くんは何か言いたげな表情で僕を少し見上げるも、口を閉ざしてしまう。
気づけば僕達の住む下宿にたどり着き、僕は天宮くんの部屋に上がり込む。包から書物を取り出すと、天宮くんに手渡した。
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