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雅哉の秘密
「あの子、インポテンツなのよ」
雅哉の母親「冴子」からそう言われた時
一瞬、拓也は耳を疑った。
少し考え、それも仕方がないことなのかと納得した。
「いつからですか?」
こんな質問は、残酷でしかないかもしれない・・
そんな拓也の心情を察するかのように
冴子が、笑顔で返してきた。
「そんなに苦しそうな顔、ハンサムが台無し」
そう言うと、彼女はコロコロと笑った。
「少なくともあなたのせいじゃないわ」
今度はカラカラと笑った。
まったくこの人は・・敵わねぇや・・
拓也は、目の前で雅哉そっくりの顔で笑う女性を見て
「ひょっとしたら俺がつきはなした所為?」
という自分の中の傲慢をかなぐり捨てた。
冴子の話しによると、雅哉は精通もまだらしい。
彼女の記憶が正しければ、高校生になった頃のことだ。
自身の病気が、寿命を「25歳ころまで」と定めている以上
精通が意味のないことだと、雅哉は悟ったのだろうと言う。
悟った以上、男性器の勃起に、脳もホルモンも反応を示さない。
実のところ、冴子は、思春期に入った息子の「性」を
自分が手助けしなければならないかもしれないと考えていた。
勿論、それはセックスという行為ではない。
相談したドクターの話しによると
例えば障がいを持つ男児の母親は
思春期に入った息子の「性を放つ行為」に
一役買っているケースがあるそうだ。
「まぁ、本人の意志が大事ですが・・」と前置きしたあと
ドクターは、手伝うのも一つの手です、と言った。
考えた挙句、「どうしてるの?」と雅哉に聞いてみたところ
「大丈夫、僕起たないから」と言われたのが、高校入学時。
「だから、インポテンツとは少し違うかしら?
だって、正常に機能していたのにダメになった訳じゃないから」
確かに・・・と拓也は顎に手を置きながら頷いた。
でも・・と拓也は思う。
拓也の彼女である雛子の話しによると
雅哉は、ずっと拓也のことが好きで
中学生の頃に、雛子がそれに気付き
それが縁で、雛子と雅哉は友人になった。
二人で策を巡らし、拓也と同じ高校に進学し
高校生になっても、雅哉は相も変わらず
拓也一人を思い続けていたらしい。
好きな相手を思うとき・・・
雅哉の「それ」は反応しないのだろうか?
欲情しないのだろうか?
これは・・・
雛子の描いた「計画」は困難を極め
ひょっとすると成就しないのかもしれない。
この時の拓也は、そう感じたのだった。
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