理論派の俺が死にまくる

1 理論派の俺、まさかの転生？

　よく見かける、前世でプレイしてた乙女ゲーの悪役令嬢に転生してしまった私、ピンチからの逆転劇みたいなのあるじゃん？
　あれってさ、転生ったって生まれるとこからじゃなくていきなり、大人。私知ってるこの展開、というさ。転生というより「器」の乗っ取りだと思うわけよ。

　それまで存在してた「魂」は一体、どこに行ってしまったんだ？　ゲーム世界転生した「私」の、元の器か？
　大体転生ものって、冒頭で不慮の事故やらに遭って、そのまま死亡からの転生だろ。
　ということはだよ、俺の仮説が正しい場合、元の「魂」は肉体と共に消滅したとは考えられないだろうか？

　えらい迷惑な話じゃないか？
　あるいはもうひとつ。
　ゲーム世界に「転生」って物凄く怖くないか？　ゲームということは「現実世界」ではないつまり「仮想現実」。「私」は出られない仮想現実という鳥籠の中に囚われたことになる。
　更なる転生が存在し別の世界に移れるなら退路はある。可能性としては。

　そんなこと考えるなって？　考えるな、感じろ？
　無責任な言葉だな。だってお前は所詮「仮想現実」の中の「同級生・田中」という役割を与えられたプログラムに過ぎない。俺の思考を誘導する為の、チュートリアルだ。
　俺の不安などお前にはわからないだろう。そのように作られていないのだから。

　俺のこの世界での名前は「真宵(まよい)」。
　常に選択肢に迷い、多数の恋人候補選びに迷い、イベントスチル集めに奔走し、ハッピーエンドとバッドエンド両方を回収する為に何度も同じエピソードを繰り返す。俺はこの真宵を知っている。数種類のバッドエンドも見たことが、ある。

　ということは、選択肢さえ誤らなければ回避可能。ハッピーエンドへのルートはなんとなく覚えている。
　しかし。
　ハッピーエンドの先にあるものは何か？　エンディングテーマと共に、スタッフロールがだらだらと流れ、画面が停止したあと俺はどうなる？
　そこからの俺は、どこへ向かう？

　そんな俺の混乱は同級生・田中のどうでもよい相槌に流され有耶無耶となった。
　やけになった俺は、この第二の人生にタイトルをつけた。
【理論派の俺がまさかの乙女ゲー転生で生徒会長からパシリまで全ルート攻略の為に死にまくる】
　死にまくるってなんだよふざけんな。そして真宵は女だが俺は男だ。

　魂のBLかよ、そんな展開願い下げなんだ。
　確かに俺はこのゲームをプレイしたことがあるが、性自認は男だし恋愛対象は女だ。え、なんでプレイしたんだって？　それは絵師のファンでエロスチルが絶品だったからだよ。
　ん？　ということは俺は…勘弁してくれ！