19人が本棚に入れています
本棚に追加
4 選択肢に生じた迷い
選択肢Aを選び続け、田中ルートを淡々とこなした俺は、何度目かのデートの時に、いつものように選択肢が出た。
A 「田中くんて、私のどういうとこが好きなの?」
B 「隣のクラスの千葉くんがこの前ね……」
C 「今日はもっと田中くんと二人で、長い時間過ごしたいな」
ここで俺にふと迷いが生じた。
何故ならここでCを選ぶと、どエロイ展開が待っているのだ。かなり魅力的だ。
しかしうっかり誘惑に負けてCを選んだら、真宵はどうなると思う? バッドエンドルートに変更されるのだ。本屋のイケオジ店員と同様だ。
田中と深い仲になった後、真宵は何故か他の男とも関係を持ち始める。とんだビッチだがそこが良い。しかし……
嫉妬に駆られた田中は……真宵を刺しに来てゲームオーバーとなる。
刺される……というか死ぬんだろうなゲームオーバーということは。単なるスチル集めの為にならバッドエンドも厭わないが、これは乙女ゲーに転生した俺の第二の人生なのだ。そしてこれが初めてのプレイ。初めてで、最後だったらどうする。
俺の第二の人生、遭えなく終了となる。ここは誘惑には負けず、とりあえず無難にAを選択することにした。
ことあるごとに現れる選択肢は、俺にしか見えない。タッチパネルのようなものが出現して、俺はそれを選択するのだ。
ここで手が滑った。
「隣のクラスの千葉くんがこの前ね……」
B!!!!!!
AとCの間で迷った俺はうっかり、真ん中の選択肢Bを押してしまったのだ。
Bってなんだったろうか。あまり記憶にない。記憶にないということはつまり大したことがないんだろう。しかし田中ルートを完遂するにはずっとAを選択し続ける必要がある。
詰んだ。
「千葉がどうかした?」
「千葉くんが……」
要約すると、隣のクラスの千葉が生徒会へ立候補するという話だった。俺つまり真宵は書記に立候補しているが、千葉もやはり書記狙いらしい。
「へー……でも俺の票は決まってるから」
「ありがとう、田中くん」
「そうか……千葉がねえ」
やたらと千葉を気にしだした田中は、カフェの椅子から立ち上がった。
その日Aを選んでいたら、二人はいい雰囲気になってキスまで持ち込む予定だったはずだ。しかしBを選んでしまった俺は、何故だか気もそぞろな田中と 早めに別れ、何事も展開せぬままに家に帰る羽目になった。
別に田中とキスをしたかったわけではない。ただ今日選んだBが後々どう影響するのか定かでない。
すっきりしない気持ちのまま翌日登校すると、田中と千葉が昇降口でぼそぼそと話しているのが目に入った。
「田中く……」
声をかけようとして、足が止まる。
こんな展開は俺の記憶になかった。選択肢Bを軽んじて、このルートをスルーしていた可能性が高い。つまり展開がわからない。慎重に行かなければ。
最初のコメントを投稿しよう!