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6 パパ活
千葉に壁ドンされた俺は、傍らの田中にすがるような視線を投げてみた。しかし田中は助けようともせずに傍観者に徹している。なんだ?
やはりこのルートは詰んだのか。なんだか嫌な汗が出てくる。
千葉が静かに笑った。
「知っているぞ。きみがパパ活してるって」
「パ……パ活?」
咄嗟に俺は千葉が何を言っているか理解出来なかった。パパ活ってなんだっけと考えを巡らせるうちに、ご丁寧にも説明が入る。
「援助交際を少し言い方変えてみただけかもしれないけど、やっていることは五十歩百歩。おっさん相手に金でデートするとか、安い女だ」
「……そんなこと」
してない、と言おうとしたが、どうもルート選択を誤った俺はパパ活とやらをしていることになったのかもしれない。言い淀んだ俺に、田中は信じられないものを見るような目を向けている。おい、そんな目で見るな。本当にやっているのかパパ活。
その時鞄に入れてあったスマホが鳴った。妙なタイミングで自己主張したそれに一瞬意識を取られたが、今はそれどころではない。鳴り続けるそれを無視した俺は相変わらず千葉に壁ドンされたままだったが、更に田中が手を伸ばしてきた。おいおい二人の男に壁ドンというのは、さすがに暑苦しい。
──しかし、田中の本当の狙いは俺の鞄だったらしい。
「真宵、スマホを貸してくれ」
「ちょっ……」
勝手に鞄からスマホを取り出した田中は、更に勝手にそれを操作して電話に出ると、スピーカーをオンにして話し出す。ちらりと見えたが、画面には【パパ】と表示されていた。
『ああ、真宵。誕生日の店の予約のことなんだが……』
年配の男の声がして、田中は顔を歪める。店の予約ってなんだよやはりパパ活なのか。
「生憎だな、おっさん。真宵は俺と大切な話をしているところだ。他を当たってくれ」
『な、なんだ君は……』
話を続けることをせずに、田中は通話を切った。
重たい空気が流れる。
「今のは?」
「──今のは、パパだよ」
「やっぱりパパ活しているのか!」
そうではない。パパ活とかは一切関係がなくて、今のは真宵の父親の声なのだ。確か真宵の誕生日がもうすぐだった。しかしこのタイミングで学校の時間に電話をかけてくるなんて、シナリオに悪意しか感じない。
悪意あるシナリオ下で、俺に説明の時間を与えてくれるわけもなく、千葉と田中は結託して、有無を言わさず俺を人気のない理科実験室まで連れ込む、という暴挙に出た。ちょ、ま。──マジか。これはどういう展開が待っているのだろうか。心臓が緊張でぎゅっとなる。
「真宵、お前は既にさっきのおっさんに純潔を……奪われたのか?!」
「田中。パパ活というのは肉体関係は持たないとネットに書いてあった。──まあ、建前かもしれないがな。どうなんだ真宵さん。それとも、体に聞いた方が良いのかな」
千葉の顔にいやらしい物がにじんだ。お前そんなキャラだったのか。しかも田中は田中で純潔とか気持ち悪いな。相手に処女性を求めるのか。しかしそんなことを言っている場合では、ない。
──そして俺は、理科実験室で初めてのバッドエンドを迎える羽目になったのである。詳しくは割愛する。ご想像にお任せしたいところだ。
【田中ルートB バッドエンド】
to be continued?
→ Yes
No
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