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7 インターバル
自分の部屋のベッドで目覚めたのは、まだ夜も明けぬ時間だった。時計の音がちくたくと小さな音を刻む。小綺麗な女子高生の部屋は真宵の持ち物で構成されていて、ふんわりと良い匂いがした。
ポップな色のカーテン。俺のことを見守るかのようにベッドサイドに置かれた、夢の国のキャラクターを模したぬいぐるみ。本棚には教科書と参考書と逆ハーレム物のラノベとかが並ぶ。
中身を読まずとも、タイトルで長々とネタバレしているから俺にはわかる。そんなもん読む必要が果たしてあるだろうか? まあ、テンプレ小説の中にも多岐にわたる過程だったり登場人物の魅力が豊富だったりと、全部が全部同じであるわけでもないのだろう。
逆ハーレム。
真宵はそういうポジションに憧れているのだろうか。立ち上がり一冊を手に取ってみる。
「──おおぅ」
流し読みでやはりテンプレだなあと思いながらも、意外と挿し絵がエロくてガン見する。今時の女子高生はこんなん読むのか。あるいは普通なのか。
いや、まあそれはいい。変な時間に目覚めてしまったわけだが、俺は寝る前何をしていただろう。しばし誰もいない部屋で考えて、ある記憶で停止する。
「バッドエンドか……」
俺はあえなくゲームのバッドエンドを迎えたのだ。田中と千葉に拉致られて、理科室で……これ以上は思い出したくない。というか、曖昧模糊としている。しかしバッドとは言え「エンド」を迎え、こうやって目覚めているわけであり、違うルートでやり直すことは恐らく出来るのだろう。少しほっとした。
もしも一度のバッドエンドで、そのまま真宵の人生が幕を閉じたなら、俺は共に消えるに違いない。それがなかったのはよしとしよう。
これが現実世界であったら、コンティニューなどない。死んだらそこで終わりだし、道を踏み外したら正規ルートに戻るのは容易くない。
ここは俺が転生した乙女ゲーの世界。
うっかり踏んだ田中Bルートを次は回避して、上手いことやらなければ。
外は雨が降っていた。まだ暗い空をカーテンの隙間からちらりと覗き、窓ガラスに映る自分の姿をなんとなく眺める。
可愛い。
真宵はとても可愛い。
こんな可愛い真宵は、田中と千葉に……何をされたのだろうか。乱暴されたか、殺されたか……いや、やってもいないパパ活を勘違いして、殺されたりするだろうか? でもゲームだしな。ラストどうなったのか、俺の記憶がマスキングされていてどうにもわからなかった。
「もし俺が……」
真宵以外の登場人物(男)だったとしたら、きっと真宵は魅力的に映るはずだ。誰が着替えさせたのか、俺はパジャマを着ていた。そのボタンをひとつふたつ外してみる。
何カップだからわからないが、繊細な造りのブラに包まれた柔らかな胸が見える。俺の思考は男だし、それが他人だったら性的興奮も覚えるのだろうが、自分自身の肉体ともなると興奮したりはしない。ムラムラするような息子も生憎不在だ。いちいちそんな気持ちになっていたら、疲弊する。
「別になんのことはない……か」
俺が体をチェックしたのは、田中たちがなんらかの痕跡を残したのではないか、と考えたからだ。しかし真宵の体は綺麗で、傷などもなかった。リセットされた状態であれば、それは当たり前のことなのかもしれなかった。
朝になったら、またニューゲームが始まるのだろう。まだ時間は早かったが、俺はなんとなく再度眠りに就けないでいた。仕方なく本棚から先ほどのラノベとは別の適当な本を持ってきて、ベッドに潜り読むことにしたのだった。
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