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◆◆◆◆◆
「―――おっかねぇな、おい」
頬を砕く寸前で、その拳を握った篠崎が、クククと喉の奥で笑った。
「……やっと素直になる気になったか?」
笑った口元とは裏腹に、見下ろす目つきが鋭い。
「お前が未練があるのは、俺にじゃない。林に、だろ?」
「――――」
紫雨は篠崎を睨み上げた。
「そんなに忘れられないなら、なんで自分から振ったんだ?」
「…………」
「俺にくらい、ちゃんと本当のことを言えよ」
「―――はは。馬鹿言わないでくださいよ」
紫雨は肘をつき、上半身を軽く起こすと、篠崎を再度睨み上げた。
「あんたは一途な新谷に毒されてるから、そういうことにしたいんでしょうけどね。俺は違う。
あいつのこと飽きたから振ったんですよ。少し距離を開けてみたら、大した男じゃなかった。往々にしてあるでしょ、そんなこと。だから―――」
「じゃあ、この手は何だよ、この手は」
篠崎は呆れながら、まだ力いっぱい握られたままの拳を振って見せた。
「昔好きだった俺と言えど、林を馬鹿にされるのは我慢ならなかったか?」
「―――あんた、もしかして……わざと?」
紫雨が金色の目で篠崎を睨む。
「わざと―――?うーん。わざと、かな」
篠崎はぐいと体勢を整えると、紫雨の拳を再びベッドに押し付けた。
「俺はこう見えて、お前のことも本当に大事に思ってんだよ」
「――――?」
「だからお前を救ってやりたい」
もう一つの手も掴んで、顔の横に押し付ける。
「言ってることとやってることが合致してませんよ」
眉間に皺を寄せたまま紫雨が見上げると、篠崎は笑った。
「ーーー林のこと、全て忘れさせてやろうか?」
言いながら紫雨の足の下に自分の太腿を滑り込ませる。
「………ちょっと!おふざけはそこらへんで止めてくださいよ…!」
「なんだよ、さっきまであんなによがり狂ってたくせに…」
篠崎が笑う。
「林の名前を出した途端、それかよ」
両足でぐいと紫雨の下半身を軽々と浮かせる。
「そっちがそんな態度なら、俺も手加減は止めるぞ」
腰を押し付け、スーツのズボン越しに、紫雨の入り口にソレを押し付ける。
「―――まさか、あんた、本気で……?」
「お前、新谷より力ないもんな。押さえつけてしまえば犯すのなんて簡単だ」
「―――っ!ふざけんなよ…!強姦罪で訴えるぞ…!」
「はは。お前がか?面白いな、それ」
篠崎は押さえていた紫雨の手を頭の上で一つにまとめ、片手に体重をかけた。
「―――くっ……!」
「いつだったか言ったろ、お前に。もっと体を鍛えろって」
言いながら自由になった手で紫雨の浮いた腰からベルトを抜き取る。
「筋トレしなかった自分を恨むんだな」
言いながらスラックスを膝近くまで引きずり落した。
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