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 昔々あるところに赤八(あかはち)という青年がおりました。  この赤八という男、とにかく嘘ばかりつく。息をするようにしょっちゅう嘘をつくものだから、村人達からは『嘘つき赤八』と呼ばれ、大層煙たがられておりました。  さて、そんな赤八がある日畑仕事から帰ってくると、家の前にもっふりした丸いものが転がっております。  ――おんや?なんだろか、あのは?  赤八はそのもふもふに近づくと、ひょいと持ち上げてみました。  「あんれ。なんだおめえ、たぬきか」  それは丸まり、うずくまっていたたぬきでした。  前足の両脇部分で持ち上げられたたぬきは、暴れることもなく体をぶらんとさせたまま。まるっとした尻尾もぷらぷら揺れています。なんだか元気がないようだ、赤八がそう思っていると、たぬきは弱弱しく口を開きました。  「ぷへぇ」  「『ぷへぇ』って変な鳴き方するたぬきだな」  「……お腹が」  「えっ!」  「オイラ、お腹がすい――」  「え、おめえ喋れんのか!」  「え、あ、はい。オイラ、お腹が――」  「たぬきがか!?たぬきが喋るだか!?」  「はい、あの」  「こいつはたまげた!とんだぽんぽこたぬきだな!」  いったいどういう意味なんだろう。  空腹で朦朧とする意識の中で、たぬきはそう思いました。
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