2人が本棚に入れています
本棚に追加
1
昔々あるところに赤八という青年がおりました。
この赤八という男、とにかく嘘ばかりつく。息をするようにしょっちゅう嘘をつくものだから、村人達からは『嘘つき赤八』と呼ばれ、大層煙たがられておりました。
さて、そんな赤八がある日畑仕事から帰ってくると、家の前にもっふりした丸いものが転がっております。
――おんや?なんだろか、あのもふもふは?
赤八はそのもふもふに近づくと、ひょいと持ち上げてみました。
「あんれ。なんだおめえ、たぬきか」
それは丸まり、うずくまっていたたぬきでした。
前足の両脇部分で持ち上げられたたぬきは、暴れることもなく体をぶらんとさせたまま。まるっとした尻尾もぷらぷら揺れています。なんだか元気がないようだ、赤八がそう思っていると、たぬきは弱弱しく口を開きました。
「ぷへぇ」
「『ぷへぇ』って変な鳴き方するたぬきだな」
「……お腹が」
「えっ!」
「オイラ、お腹がすい――」
「え、おめえ喋れんのか!」
「え、あ、はい。オイラ、お腹が――」
「たぬきがか!?たぬきが喋るだか!?」
「はい、あの」
「こいつはたまげた!とんだぽんぽこたぬきだな!」
いったいどういう意味なんだろう。
空腹で朦朧とする意識の中で、たぬきはそう思いました。
最初のコメントを投稿しよう!