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それから数日。彼は部活に復帰した。以前と変わりなく周囲に溶け込み日々部活動に精を出している。部長とも何事もなくコミュニケーションをとっている……様に見える。
わたしの方はというと、おうちょっと面貸せやぁ等と集団に拉致されて人気のない場所で尋問を受けたりといったこともなく平穏に過ごしている。特に噂になっているということも無さそうだ。ただ、部長に接する度に意識してしまう様になったのは少し困る。何か感づかれたりしなければいいのだが。
何はともあれ、日々は過ぎる。
「一階の倉庫までですね。了解です!」
「ありがとうございます。コウヅキさん」
わたしは顧問の先生の手伝いで段ボール箱いっぱいの機材を運んでいた。廊下を歩きながら隣を歩く先生を見やる。
先生は若い男性で眼鏡をかけてスーツ姿で右手に杖をついていた。足が悪くて重い荷物を持てないのでわたしはこうしてよく手伝う。先生は顧問ではあるが教員ではない外部の人材で、部活に来られないことも多いが指導力は本物で部員からは信頼されている。
階段を降り始めたとき、どちらからともなく世間話を始めた。
「それにしても彼が復帰してくれて本当に良かったですね」
先生は彼のことを話題に出す。
「はい、わたしも心配してました」
「やっぱり、コウヅキさんが何かしてあげたんですか?」
「え?」
驚いて先生の方を向く。
「以前通りかかったファミレスで二人が話しているのを外から見かけたんですよ。だからコウヅキさんが何か相談に乗ってあげたのかな、と」
「ああ、あのときの……」
実際には相談に乗ってあげられなかったけど、上手く功を奏したとは言えるかも知れない。
「それで、コウヅキさんは彼に告白しないんですか?」
わたしは思い切り階段を踏み外した。重い荷物を抱えたまま体勢を崩してやばいと思ったので咄嗟に階段から跳ぶ。六段飛ばしで下の階に着地して全身のサスペンションで重さの勢いを殺した。ずだぁん、と良い着地音が廊下に響く。
「なななな、何言ってるんですか先生!」
「あ、大丈夫そうですね」
先生はゆるりと階段を降りる。
「告白なんて!そんなことできるわけないじゃないですか!」
「あれ、しないんですか?」
「え?
あ、いや、絶対にしないってわけじゃなくて、でも別にする予定があるわけでもなくて、えーと……」
「コウヅキさん」
先生が真面目な顔をする。普段から真面目だがそれに輪をかけて真面目な表情だ。
「貴女が彼のことを好きだと周囲が気づいていないと思っているのは部内では貴女だけです」
「………」
「貴女のご友人たちも最初は面白がっていましたが、あまりに進展がなさ過ぎてやきもきしています。先生からもなんか発破かけてやってくれとも言われました」
「………」
「そう言われたからではないですが私も思うところがあったので、こうして提言させて頂いた次第です」
「………」
それからわたしは無言で機材を倉庫にしまった。先生も片付ける事以外は特に何も言わなかった。
「それじゃ。次の部活で」
先生はそう言って去って行った。
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