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精を流し込んでもらった子宮がポカポカ温かい。
残念ながら今回は全部流れてしまうけど、アルファの精に満足している身体はその間、落ち着きを取り戻している。
ふわふわとなんとも言えない幸せの中を漂っている僕の意識は、僕を包み込む大好きな香りに促され、浮上を始める。
「目が覚めました?」
胸いっぱいに大好きな香りを吸い込み、僕は目を開けた。
「大丈夫ですか?食べられそうなら今のうちになにか食べましょう」
そう言ってベッドから出ていこうとする葵くんを僕はむぎゅっと抱きしめて止めた。
「まだ行かないで」
強い欲情の波は去ったけど、体の奥の疼きはまだ消えない。まだ発情期の中にあるから。
葵くんは僕の願いの通りベッドから降りるのをやめ、体勢を直して僕をぎゅっと抱きしめてくれた。
こんなに激しい発情期は初めてだ。
湊を授かったあの時は予定にない発情で、葵くんの精をもらったらすっかり熱は引いてしまった。
あれは、無事に受精したからって言うのもあるけど近くにいた運命の番を繋ぎ止めるための発情だったから、番の契約をしたことによって身体が満足したんだと思う。
番の契約・・・さっきの葵くん、まるでまた契約するようにうなじを噛んでた。
ふふふ、と笑ってしまった。
優しく頭を撫でてくれていた葵くんはその気配に手を止めた。
「どうしました?」
「またうなじ、噛んでたと思って」
すると葵くんはちょっと拗ねたような顔になった。
「ずっとやり直したかったんです。あんなムードの欠片もない即物的な契約、オレ的には許せません」
そう言ってうなじの歯型を指でなぞった。
「でもキレイな歯型だよ」
ズレたりブレたりしてない、お手本のようなキレイな歯型。
「結果ではなく、過程です」
ふふふ、と僕はまた笑った。
「僕はどんな過程でも、この結果がうれしいよ?」
僕は葵くんの首元に顔を埋めて香りを嗅ぐ。そしてふと気づいた。
「・・・ネックレスは?」
首から提げていた結婚指輪がなかった。
「ああ、あれはそこにあります」
指さされたところを見ると、サイドテーブルにチェーンごと置いてあった。
「きっと我を忘れてしまうと思って。危ないので外しました」
そう言う葵くんの左の薬指にも指輪があった。
「これはレプリカです。どうしても今日つけたかったんですがまだサイズが合わないので、レプリカを作ったんです」
そう言って外して見せてくれた。
レプリカと言ってもちゃんと裏に刻印があった。僕たちの名前と番った日付。本当は結婚した日を入れるんだけど、僕たちはまだ籍を入れていないから番った日付だ。
それを見て気がついた。
「ちょうど1年前の今日なんですよ。オレたちが出会ったの」
そのすごい偶然に、僕はびっくりした。
それじゃあ、本当にやり直し?
「オレとしては満足の行く発情期と番契約でした。奏さんは満足出来ました?」
満足って・・・葵くんのテクニックですか?
「・・・そんなの・・・さっきの僕見たら分かるでしょ・・・」
ものすごく乱れて求めちゃったよ。
僕は真っ赤になって顔を隠した。
そんなこと、普通訊く?
「奏さん。かわいい」
そう言って葵くんが僕の耳元を舐めた。
それでスイッチが入ったのか、子宮が受精しなかったことに気付いたのか、僕の身体にまた火が灯った。
それに気づいた葵くんの香りもねっとりとしたものに変わる。
「・・・なにか食べなくて大丈夫?」
さっき食べよう、て言ってたのに。
「奏さんをいただくので大丈夫です」
艶を含んだその声に、僕の身体は一気に熱くなり、再び後ろが濡れ出した。
発情期は始まったばかりだった。
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