709人が本棚に入れています
本棚に追加
実家に着くと、母に拗ねられてしまった。もう少し湊を独占していたかったらしい。でもそれは半分冗談で、すぐににこにこと預かってくれていた間の様子を話してくれた。
湊はとてもいい子で、夜もぐっすり寝てくれたこと。来客があっても泣かずに抱っこされてたこと。そして寝返りまであと少しのところまでしたこと。
そのどれもに言いたいことがあったけど、まずは寝返り!
「寝返りしちゃったの?!」
うそっ。僕の見てないところで?!
「だから、もう少しだったのよ。横向きにまでなってあと少し、てところでころんと仰向けに戻っちゃったの」
その時慌てて動画を撮ってくれたらしく、その様子を見せてくれた。
ほんとだ。あと少しのところで戻っちゃった。
でももうすぐ出来そうだから、ソファの上とかに寝かすのはやめよう。落ちたら大変だ。
「で、来客があったの?」
最近この家にはあまりお客さんは来なかったのに、珍しい。
「来たわよ。どこで聞いたのか・・・」
ちょっとため息混じりで言うから何かと思ったら、どうやら秀兄と貴兄と京兄が揃いも揃ってやってきたらしい。ちなみに貴士さんはもともと『貴兄』って呼んでたのを就職する時に、『貴士さん』に変えたのだ。会社で万が一間違えても誤魔化せるように。でもやっぱり僕の中では『貴兄』が一番しっくりくる。
この3人は僕がこの家を出るまで、誰かしらが必ず家に来ていた。秀兄も就職を機に家を出ていたのに、何かにつけて帰ってきてたのだ。でも今思えば、それは僕にマーキングするため、だったみたい。
いくらうちの一族の中では珍しいオメガだからって、みんな心配しすぎ。
僕が一人暮らしを始めても、最寄り駅が貴兄の家と同じだったから、駅で待ち合わせて会社の最寄り駅まで一緒に行っていたのだ。そこからは会社の人にバレないように別々に行ってたんだけだど、そのとき多分マーキングしてたんだよね。
だってぎゅうぎゅうのラッシュの電車の中で、僕を庇うように立ってくれてた貴兄とはかなり密着してたもの。
まあ、そんな風に大事にしていた弟(分)の子どもだから、3人にとっても湊は特別らしく、湊を散々かわいがって帰って行ったらしい。
なので母は湊を取られて悔しかったようだ。でも、そういう母の顔は凄く楽しそうだったので、久々にみんなが集まってうれしかったみたい。
湊はみんなを幸せにしてくれるね。
発情期で預けなくてはいけないことに僕は少し罪悪感を感じていた。アルファやベータだったらそんなことないのにって。だけど、こうして僕のいない間に湊がいっぱい可愛がられて、そしてみんなを幸せにしている話を聞くと、それもそんなに悪くないことなのかもしれないと思える。
湊、ありがとうね。
腕の中に戻ってきた愛しい存在に、僕は心の中で呟いた。
その後志乃さんの夕食をみんなでいただいて、食後のお茶の時に葵くんの成長の話になった。
さすがの母も僕より背が大きくなっていたのに気づいたらしく、母から制服の話になった。
「その分じゃ制服のお直し、間に合わないでしょ?秀のあるから持って行きなさい」
なんでも秀兄も中学の時急に成長したらしく、1度作り直したそうだ。
「それも中3でよ?あと少し待ってくれたら良かったのにね」
だからあまり着ていないのでキレイなんだって。
実は葵くんも同じ事が起きるかも、と思って最近クリーニングに出してくれていたらしい。
見たら今直している制服よりも大きいサイズだった。これなら次に大きくなった時にちょうどいい。
「ありがとう、母さん」
「こんなに早く必要になるとはね。とりあえず今お直しに出してる間はまだ大きいでしょうけど、秀のを着ればいいわ」
そう言って持たせてくれた。
僕の発情期が終わったので葵くんは明日から登校なんだけど、制服をお直しに出しちゃったからジャージ登校の予定だった。
葵くんは気にしてなかったけど、僕はちょっとジャージ登校抵抗があったんだよね。
最初のコメントを投稿しよう!