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それから日々は何事もなかったかのように穏やかに過ぎ、木曜日を迎えた。
「今日、湊連れて学校行くけど、医務室にいるね」
京兄には行くことを伝えていた。
「分かりました。ホームルームが終わり次第、医務室へ行きます」
「うん。よろしく」
そして、僕はいってらっしゃいのキスをして、葵くんを送り出した。
さてさて、今日は午後から出かけるから、急いで家事を片付けなくちゃね。
八木くんからのお話が何なのか、正直分かっていた。これがこの日のこの場所でなかったら、僕はまだ八木くんが僕を好きだなんて考えなかったと思う。
もう8年前だね。僕たちが初めて会ったのは・・・。
8年前の今日、僕は八木くんとあの桜の木の下で初めて会った。
この日を指定してきたのは、やっぱりそういうことだと思う。
在学中も卒業後も、一切そんな素振りはなかったけど、いくらなんでも鈍い僕にも分かってしまう。
ずっと、思っててくれたの?
もしそうならば、僕も真剣に答えなければならない。
僕は覚悟を決めた。
急いで午前中に家事を終え、湊の支度をする。
授乳の時間がちょっと合わないな・・・。医務室であげさせてもらおう。
「さあ湊、お出かけですよ」
僕はいざ、学校へ向けて出発した。
入学式の時と同じパーキングに車を入れて、僕は湊を抱っこして学校へ向かう。事前に学校へ行くことを伝えていたので、守衛さんにもすんなり入れてもらい、そのまま医務室へ向かうと、京兄がお茶を入れて待っていてくれた。
「ごめんね。来ちゃって」
本来部外者が来るところじゃない。
「別に構わないよ。奏は卒業生だし、従兄弟だし、別に来ちゃいけない理由はないからね」
なんで今日来たのか、僕は京兄には言ってなかったけど、なんとなく察しがついてるらしい。
「京兄はさ、気づいてた?八木くんのこと」
僕は湊に授乳するためにベッドのひとつを借りてカーテンを閉めた。
「んー。俺は在学中の八木先生を知らないけど、今の彼を見てたら、ね」
京兄が分かるくらい、あからさまだったのかな。
「今年、担任を持つことに張り切っててね。入学式もすごい気合いが入ってたんだよ。それがさ、終わったらなんか、魂が抜けたみたいになってて。で、その後の葵くんとの微妙な距離感に、なんとなくな」
葵くんと八木くん、生徒と担任なのに僕のせいで『微妙な距離感』だったんだ。
「別に奏のせいじゃないし、気にすることじゃない。それに奏のことがなくたって、あの二人はきっと微妙だったさ」
「僕のことがなくても?」
「あの二人はアルファだからな。アルファは一重にアルファと言っても力は様々なんだよ。残念だけど、アルファの力で言ったら、葵くんの方が圧倒的に強い。それにタチの悪いことに、アルファはその力の差を感じ取ることが出来る。・・・分かるんだよ。相手が自分より強いか弱いか」
湊の授乳が終わって、僕はカーテンを開けた。
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