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「地道に就活したけど、結構厳しくてさ。半ば腐りかけた時に安藤先生から連絡が来たんだ。学校に戻って先生をやらないかって。新卒で採った教師が産休に入るんだけど、あまりに急すぎて代わりの先生が見つからなくて困ってるって言うんだ」
どこかで聞いたことのあるその状況に、僕はこっそり心の中で会社の社員さんたちに謝った。
突然長期に休むことになってすみません。
「そんなこと言っても、多分先生はオレのことを聞いて声かけてくれたんだと思う。何気なくとった教職課程の実習でお世話になった時、特に教師になるつもりはないって言っちゃってたのに、それでも声かけてくれて・・・。それもオレが来やすいように、困ってる風を装ってくれてさ」
安藤先生ならきっとそうだね。八木くんのこと、放っておけなかったんだと思う。
「オレ、先生に甘えて、ここに来させてもらったんだ。最初は産休の間だけの短期雇用のはずだったんだけど、その新任の先生、そのまま辞めちゃったんだよ。だから今年度から正式採用になって、担任も持たせてもらった。・・・本当は入学式が終わったら、橘に連絡を入れようと思ってたんだ」
入学式の日、八木くんは湊を見てすごくびっくりしてた。あの時、八木くんは湊を抱っこした僕を見て、何を思っただろう。
「ここで橘を見かけた時、運命だと思った。何年も片思いをしていた相手が、告白をしようと決めたその日に、思い出の場所にいたんだから。だけど振り返ったその胸に赤ん坊を抱っこしていて・・・。ショックと言うか、頭が真っ白になった。でも、その後いろいろ考えたんだ。橘の結婚話なんて聞いてなかったし、もしかしたらオメガ故の望まない妊娠をしてしまったのではないか、て。もし、シングルで頑張ってるのなら、オレはその赤ん坊ごと橘の面倒を見ていこう、なんて変な決心もしたりした」
入学式だけでも大変なのに、そんなことを考えさせてたなんて申し訳ない。
「クラスに移動して橘を見かけた時も、オレを見に来てくれたのかな、なんて呑気なこと考えてさ。その後篠原に睨まれても気づかなくて、オレバカみたいだろ?橘が篠原に合図を送ったのを見て、ようやく分かったんだ。篠原の番の相手だって。入学前に篠原の番申請が出されたのは聞いていたけど、まさか子どももいたとは知らなくて、赤ん坊を抱っこしてる橘を見ても篠原と結びついてなかったんだ」
翔吾くんの授乳で医務室に行く時、スマホを見てね、て葵くんに合図を送った時だ。あの後すぐに移動しちゃったから分からなかったけど、僕は八木くんを傷つけちゃったのかもしれない。だからその後職員室にもいなかったのかも・・・。
「橘はもう違う人の番なんだ。諦めなくちゃいけない。そう思ってても頭の隅で、こんな年の離れた子と番になるのはおかしい。きっと何か事情があるんだ。橘の本意じゃないかもしれない。・・・そんな考えが頭から離れなくて。そしたら発情期欠席届が出されて、篠原が休みに入ったんだ」
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