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ずっと僕の目を見ていた八木くんが、すっと目をそらした。
「アルファの発情期欠席は番の発情期を一緒に過ごすためだ。だから今頃二人は・・・て、考えてはダメだと思っていてもどうしても頭から離れなくて、呆けて失敗して、散々で・・・。オレ、ぐだぐだでさ。情けないだろ?諦めなきゃいけないのに。なのに篠原の復帰が早くて、二人の間に何かあったんじゃないかと・・・自分に都合のいいように考えてさ」
八木くんは視線をそらしたまま辛そうに眉根を寄せる。また、心の中で泣いてるような気がした。
「今こうしてオレの話を聞かされてる橘は、すごく迷惑だって分かってる。オレの気持ちに今まで気づいてなかったんだから、今さら知らなくてもいい事なんだってことも。・・・全部自分のためなんだ。オレは橘の迷惑も気持ちも全部無視して、自分のためだけに今こうして話してるんだ」
八木くんはぎゅっと一度目を瞑って、僕に向き合った。
「橘が好きだ。あの時・・・初めて会ったあの時からずっと、オレは橘を愛してる」
真っ直ぐに僕を見つめる八木くんの目には、揺るぎない意志がこもっている。だから僕も、そのまま八木くんの目を見つめる。この視線はそらしてはいけない。
「ごめん。僕は八木くんの気持ちに応えられない」
僕は葵くんを愛している。
その言葉まで言っていいのか一瞬迷う。でも真剣に思いの全てを言ってくれた八木くんに誤魔化しは失礼だと思った。
「僕は、葵くんを愛しているんだ」
じっと見つめる僕の目からふっと視線を下にずらして、八木くんは笑った。
「容赦ないな、橘は・・・」
「ごめん・・・」
「もしも、これが卒業式の時だったら、答えは変わってたか?」
卒業式・・・その時はまだ葵くんとは出会っていない。
だけど・・・。
僕は首を横に振った。
「ごめん・・・」
例え、葵くんと出会った時と同じ状況だったとしても、僕は八木くんを求めない。
身体はアルファを求めるだろうけど、心はきっと彼を否定する。アフターピルを飲んで、無かったことにして、会わないようにするだろう。
僕の答えに八木くんは両手で髪をぐしゃぐしゃにして、あぁっと唸った。
「すげぇ未練がましいぃ。オレ、カッコ悪。ほんとアルファらしくないな」
俯いたまま自嘲気味に笑って言う。
「でも、すごく八木くんらしいよ」
その言葉に顔を上げる。
「カッコ悪いのが?」
ん?
そこの部分じゃないけど、目が笑ってるからわざと言ってるかな?
「んー。そうだねぇ」
僕も八木くんに乗って、おふざけで答えた。
この話はもう、終わりということだよね。
僕たちは新緑の桜の木の下で笑いあった。
「そう言えば、赤ん坊は?一緒じゃなくて大丈夫か?」
僕が身軽なのに今気づいたのかな?
「湊だよ。今は医務室にいるよ」
そう言って医務室の窓を指した。
医務室の窓は外からだと鏡のようになって中が見えない。葵くん、僕たちのこと見てるかな?
そう言えば、八木くんに湊をちゃんと紹介してなかった。
「八木くん、まだ時間ある?一緒に医務室行こうよ」
何気なく言ったのに、八木くんにめちゃめちゃびっくりされた。
「え?!だって篠原いるんだろ?オレ、行かない方がいいと思う」
確かに自分の番に告白したアルファには会いたくないかな・・・。でも、明日から毎日会うんだよね?わだかまりは無くしといた方が良くない?
僕は医務室の窓をじっと見た。
じーっと見て・・・。
「大丈夫だよ。特に葵くん怒ってないみたい」
変な空気感じないから、多分大丈夫。
「え?それは何を根拠に?」
「ん?勘」
「え?」
「大丈夫だから、行こう。どうせ明日会うんでしょ?明日どころか、これからずーっと顔合わせるんだから、ちゃんとしとこ」
情けない顔になった八木くんを促して、僕たちは医務室へ向かった。
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