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医務室のドアを開けると、葵くんが出迎えてくれた。 「おかえりなさい」 「ただいま」 僕が入ると、葵くんは後ろにも声をかけた。 「八木先生もお疲れさまでした」 笑顔こそないものの葵くんは普通に言ったのに、八木くんは少し顔を引きつらせた。 葵くんは別に何も怒ってないし威嚇もしてないのに、八木くん怯えすぎ。 あれ?普段の教室でもこうなの? なんか医務室が変な空気になっちゃった。なのにそれに似つかわしくない笑い声が・・・。 「・・・なにこれ、超面白すぎ」 湊を抱っこしながら窓辺で日向ぼっこをしていた京兄は、涙目になりながらまだ笑ってる。 「あの・・・オレやっぱり帰りますっ」 いたたまれなくなってドアを開けようとした八木くんの前にすっと葵くんが入り込み、ドアノブを押さえた。 「大丈夫です。オレ別に怒ってませんから」 「ごめんごめん。八木先生、折角だからコーヒー飲んでいきなよ」 葵くんと京兄に言われて渋々椅子に座った八木くんの前にコーヒーを置いたのは葵くんだった。 「もしかしてずっと湊抱っこしてるの?」 「たまにしか会えないんだからいいだろ?」 「この間来て構い倒したって聞いたよ?」 実家に預けた時に遊びに来たって聞いたけど、あれからまだ10日も経ってない。 「ごめんね、八木くん。湊紹介しようと思って来てもらったのに」 「・・・ここからでも見えるよ。それよりやっぱり橘先生とは・・・」 「あ、従兄弟だよ」 「だよな。苗字が一緒だからそうかな、とは思ったけど、従兄弟か」 ずっと気になってたのか、なんだかスッキリした顔の八木くんの前にお茶菓子を出して葵くんも座った。 葵くん、すっかり医務室に馴染んでるね。 そんな葵くんに八木くんは居住まいを正すと、いきなり頭を下げた。 「すまん、篠原。心配かけた。ちゃんと橘にキッパリ振られたから安心してくれ」 そんな八木くんに、葵くんもすっと背筋を伸ばして頭を下げる。 「オレの方こそ、入学式の日に睨んですみませんでした。それから、奏さんとの事はオレに謝る必要はないです」 そうやって2人で頭を下げあっている上から京兄が声をかけた。 「はい、じゃあこの話はこれでおしまい。で、ほら、八木先生」 そういって京兄がいきなり湊を八木くんに見せた。湊は知らない人を見てキョトンとしている。 「うわっ、超そっくり・・・」 湊の顔をまじまじと見て、驚いた声を上げた。 「だろ?ここまで似てるとなんか清々しいよな」 何が清々しいのだろう?よく分からないことを言いながら、2人が湊で盛り上がってる。その横で普通にオレンジジュースを飲む葵くん。身体がぐんと大きくなっても、コーヒー入れてもらえなかったのがちょっとかわいい。 「いじめないであげてね」 八木くんには聞こえないように小声で言うと、僕を見てふっと笑った。 「努力します」 やっぱり『分かりました』じゃないんだ。 ほどほどにしてあげてね。
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