暗闇

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暗闇

「ここはどこだ。俺はどうなったんだ」 誰かの会話で目を覚ました。それに煙草くさい。 暗闇なのは、目隠しをされているからだ。目隠しの下で、目を開けても暗いってことは、もう夜なのか? それとも暗い場所だからか? しかも、椅子に座らされており、しっかり両手を縛られていて身動きも取れない。 「どうなってんだ」 暫く考えて、そう思い出した。 大学の帰り道、誰かから携帯にショートメールが来たんだ。 それを確認しようと思い、下を向いて歩いていたら、突然、路地に押し込まれて。 そこから意識がないのだ。 「真昼間で、しかも俺はもうガキじゃない。背丈だって180ちょいもあるってのに、誘拐されたってのか?」 なんか無性に腹が立ち、なんとか紐を解こうとしたが、かなり固く縛られていて、びくともしない。すると、さっき会話していた奴等だろう、突然大声で笑い出した。 「ちくしょー! こっちは全然面白くねえ」 何故かあまり恐怖を感じなかった。俺には、県大会で優勝するほどの、空手の腕前があるからだろうか? でも刃物とか、ましてや飛び道具ってやつを持ってたら、と考えると少し緊張した。 先ずは、何でここへ連れて来られたのか、奴等の会話に集中することにした。 「まったく、困ったやつだよな~」 「今回のはヤバいぜ。誰にも見られてなかったと思うけどさ。本当の犯人に間違えられたら、どうしてくれるんだよな」 「それにしても、大変だな」 どうも、若い? 俺と同い歳位の男達のようである。そして、なんかどこかで聞いたことのあるような。 「あ、気が付いたようだぜ」 「良かった~ このまま寝てたらどうしようかと思ったぜ」 「あの薬って結構効くんだな」 そう言うと、2人がこっちに近づいて来た。 「ここまで何もないってことは、どうする?」 「ちょっと痛めつけるか?」 2人の会話の後、金属を床に引きずるような音がした。 「まじかよ。ヤバいんじゃないの~」 さっきまで余裕だった自分が、嘘のように手に汗がにじみ、心臓の鼓動が急速に早くなった。 まずは、紐を解いて逃げないと。そう考えていると、顔を刃物のような冷たい物があたった。 そして、さっき引きずっていたと思われる金属の、恐らく棒のような物が、座っている椅子に当たる音がしたかと思うと、その椅子に座っている俺ごと、横へ移動した。 「こいつら本気で俺に何かをするつもりだ!」 そう思った瞬間、自分の中から何かが生まれるような感覚に陥った。そして、目の前に街の光が広がったかと思うと、いつの間にか、どこかの屋根の上に立っていた。 何故かさっきまで来ていた服ではなく、赤い繋ぎのコスチュームの様な物に身を包んでいた。 「あ! そうだった! 俺は、勇者なんだ」 そう、思い出した。俺、真壁裕也は、正義の味方、トライアドのメンバーだ!  すると、俺の横に青と黒の同じコスチュームを来た2人が現れた。 「おう!」 「どうだ、今回のは結構刺激的だったから、こつ掴めた?」 そう、俺たちは毎晩、街をパトロールしている勇者トライアド。だが、俺だけ何故か変身のコツが掴めず、毎回何かしらの刺激や、切っ掛けが必要だったのだ。 2人に尋ねられ、俺は回想してみた、さっき誘拐された時の事を。 あの時、心臓がドキドキして…… でなんだっけ? 「すまん」そう言って、2人に向かって手を合わせて、謝った。 「え~‼ マジで~」 「もうネタ切れだよ~ 裕也」 「ところで、お前ら煙草なんて吸ってたっけ?」 「演出に決まってんだろう」 「頼むから、早く変身方法見付けてくれ~」  そう言い放つと、2人とも天を仰いだ。 「はい、全く持って申し訳ございませーん! お手数をお掛けしますが、明日もよろしく」 と心で呟く、裕也であった。
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