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三月ほどが過ぎ窮状にも落ち着きを見せた頃、何の前触れもないまま一揆の連判者全員十六名が捕らえられた。これは先に取られていた証文に従ったまでと下知され、この内、宗兵衛と源蔵は入牢を申し付けられ、他の庄屋達は村方預けとなった。
入牢して七日目、外の明るさが僅かに届く牢内の敷居の上に端座する宗兵衛と源蔵に、通路から厳めしい声で牢役人が呼ばわった。
「宗兵衛に源蔵、此度の強訴の一件で城中より沙汰があったので申し伝える」
「はっ」と短く答え、二人は手を着いて低頭している。その頭上から牢役人の声が、雷鳴の如く轟いた。
「強訴が重罪となるのは当藩の法度であり、両名は死罪として処することに決した。以上」
こう伝えると、直ちに身を翻し通路を立ち去って行った。その後ろ姿を茫然と見送った源蔵が、徐に口を開いた。
「わしはこうなることを最初から判っておったんやが、宗兵衛さんには悪いことをしでかしやした」
「いや、私も親父の意志を受け継いでおるのか、覚悟はしておった」
「そうどすか。それにしても他の庄屋様方は村方預けで、お城の人は何を考えていたはるんか」
「私と源蔵はんは見せしめであって、他の庄屋にも相当の処罰がなされるはず。それは、今後再び一揆を引き起こさせないための仕打ちにじゃ」
「そんなことかも知れまへんな」
宗兵衛は、膝を崩し遠くを見遣るように顔を上げた。
「こんな百姓ばかりが苦しむ世は、早く変わって欲しいものじゃ。あと何年掛かるか知れないが、少しはましな世が来ることを信じておる。そうだ、私は熊笹の花に生まれ変わろう。毎年咲く花ならば嫌な世を見続けなければならぬが、熊笹の花となれば五、六度咲けば変わった世を見れるかも知れん」
「そうどすな、それは良いお考えどす」
宗兵衛と源蔵は、その後牢内で斬首された。他の庄屋達は許されたが、首代として白銀百二十匁(二両)の上納を命じられた。源蔵は一揆の頭取として嘆願書の筆頭に名を記したことから重罪は仕方がない処罰と思われたが、宗兵衛が他の庄屋達と処罰に差がついたのが判らなかった。それは源蔵の村の庄屋であったことから連座が考えられたが、恩赦で許された身でありながら一揆に加わったことを藩に睨まれたのではないかと噂する人も見られた。
それから三十年も経ったであろうか熊笹に花がひらいた年、この村では凶兆を諫める思いから、庄兵衛、宗兵衛、源蔵の三人の霊を慰める義人碑を建てた。そして、その願いを申し立てたのは、源蔵の息子であった。
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