キャベツと稲妻

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 激しい雷雨に混じって二階から叫び声が聞こえた気がした。 「なんのこと?」  女がとぼけたように首を傾げ、せせら笑う。負けじと扉に手をかけて言葉を継いだ。 「貴女がお子さんたちに虐待を加えていたのは周知の事実です。そのうちのひとりは、耐えきれなくてわたしの家に逃げてきました。それがどういうことか分かりますか? それほど貴女の虐待が重度だということです。中に入らせてもらいますよ」  力をかけて扉を強引に開け部屋に入る。  女はにやにやとしてわたしの行動を咎めようとはしない。その態度に腹が立った。自分がしていることの犯罪性を認識していないとでもいうのだろうか。そのことが行動への躊躇いをふっきらせた。間取りは上の階の我が家と同じだ。台所の引き戸を引いたら居間がある。取っ手に力を込めて、一気に引く。 「誰が誰の子を預かっているって?」  背後で女が煙草に火をつけた。  居間で眠っているのは、小さな女の子がひとりと、男の子が、ふたり……。  一気に引いたのはわたしの血の気、だったかもしれない。女が吐きだした煙がわたしを絡めとるようにくゆる。 「小学校に通わせずに自分の子どもを虐待していたのは、あんたのところでしょう」  思考が混乱する。  記憶が、交錯する。
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