Sleeping Beauty -愛しい青の物語-

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「アレン伯父さんが教えてくれた。君の瞳は、スリーピングビューティー鉱山から産出する、ターコイズの色をモチーフにして設計したと。だから君の名前も『スリーピングビューティー』なんだよ」  怯える子猫を慰撫するように、そっとダニーはスリーピングビューティーの背を撫でた。 「世界で一番、僕が好きな青の色だ」    一つしかないアンドロイドの目から、柔らかな涙がこぼれた。  錆びついたような茶色の雫は、爛れた皮膚を滑って落ちる。  ダニーは『スリーピングビューティー』の髪に頬を押し当てた。  彼の髪に初めて触れた時、月の光を紡いだ糸のようだと思った記憶が蘇る。  かつては背まであった髪は散切りにされている。彼が受けた残酷な仕打ちを慰撫するように、そっと頬を動かす。   「君のために、僕はアンドロイドの修理技術を身につけたんだ。どんな傷でも治してあげられる。  伯父さんはもう亡くなってしまったけれど、自宅は僕が引き継いだんだよ」    しっかりとアンドロイドの身を抱き締めて、その耳元に呟く。  彼の記憶野に刻み込むように。   「一緒に帰ろう、『スリーピングビューティー』。そして君が生まれたあの屋敷で、ずっと暮らそう。もう誰にも君を奪われたりしない。誰にも傷つけさせない。僕が君を守るからね」    片側だけの目から、錆色の涙がこぼれる。  そうだ。  このアンドロイドには涙を流すシステムがある。  裸で身を寄せ合う人類を傷つけないように、ただ優しさだけを詰め込んで彼は作られた。  なのに、その身にあまるほどの暴力を受けたのだ。   「十五年前に約束したね、僕が大人になったら、僕専用のアンドロイドになってほしいと」    初めて見た時から、彼に恋をしていた。  彼の唯一になりたかった。  アンドロイドは物だ。心などないのだと、周囲の人々はダニーの幼い恋をさりげなくたしなめてきた。  それでもダニーは懸命に、成人した時には『スリーピングビューティー』の所有者になりたいと伯父に願い続けた。
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