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初期号はいわば試作品だ。
商品として世に出すことはない。伯父は手元に留めておくつもりだったらしい。
けれど、あまりに必死のダニーの懇願に、ついに折れる形で伯父は許可を与えてくれた。
天にも昇る心地だった。
その場で、ダニーは『スリーピングビューティー』の元へ走った。
途中、伯父の庭に咲いていた花を一輪摘み取り、彼へのプレゼントにしようと握りしめる。
『スリーピングビューティー』は、いつも彼が待機場所にしている部屋にいた。
喜びに弾む足取りで近づき、大人になったら自分のアンドロイドになってほしいと思いの丈を告げる。
ダニーが捧げた花を、彼ははにかみながら受け取ってくれた。
ダニエル様のご成長を、お待ちしております。
と優しい微笑みと共に、彼は申し出を受けてくれたのだ。
贈った花は、ひな菊だった。
盗難によって彼が奪われた後、ダニーは伯父の庭のひな菊を大切に育て続けた。
彼が戻ってきた時に、花を見て喜んでほしい。
その一念だった。
かつて、庭で一緒に過ごした時に、銀色の髪にひな菊の花を挿してあげたことを思い出す。彼はとても嬉しそうに笑っていた。
同じように、再び彼に笑顔になってほしかった。
庭を覆うように咲くひな菊の花は、十五年前と何一つ変わらない、ダニーの気持ちそのものだった。
「僕は大人になったよ『スリーピングビューティー』」
『スリーピングビューティー』が自分から動いた。
ぎしぎしと音をたてながら関節の折れた腕が動き、ぎゅっとダニーの身を抱き締める。
弱々しいけれど確かな力のこもった抱擁だった。
「一日たりと、お約束を忘れたことはありませんでした、ダニエル様」
静かな声が耳朶を打つ。
「もう一度、お会いできて嬉しいです」
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