Sleeping Beauty -愛しい青の物語-

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 店主は微かに肩をすくめた。   「私どもはジャンルを問わず良品を集めておりますのでね。古いアンドロイドならいくつか取り扱っておりますよ。果たしてその中にお目当てのものがあるかどうか、解らないと申し上げているだけです。  高名なヘンドリクス商会の社長さんに、偽物を掴ませたとあってはこちらの看板にも傷がつきますのでね」    さして看板のことなど気にしていない口調で、店主は笑いを浮かべたまま呟いた。  机を間に挟んで向かい合いながら、心のこもっていない笑顔を、互いに交わし合う。 「お心遣い、ありがとうございます」  ダニーは形ばかりの礼を述べた。 「店内を拝見したところ」  ダニーはそろそろ片をつけようと言葉を放った。 「アンドロイドはあなたの専門外のようだが……普段は、美術品を取り扱っていらっしゃるので?」 「そうですね。美を愛する心が長じて、主に美術品を扱う仕事をしております」  美術品と言っても、いかがわしいものが大半だ。  鑑定書付きを謳っているものも置かれているが、うさん臭さが拭い去れない。  目の前に座る男と同じだった。  ちらっと眼の端に挟んでから、ダニーは顔を店主に向けた。   「それでしたら、ミズラヒさん。私がこの店のアンドロイドを全てお引き取り致しましょう。先ほどのお話では、アンドロイドは三体いるとおっしゃっていましたね。その全てを買い取ります」    店主が驚きを顔に浮かべた。  一体でも売れればいいと考えていたのだろう。だが、この男の手元に、他のアンドロイドを放置しておくことがダニーには我慢ならなかった。  買い取るのなら三体まとめてと、店主がアンドロイドのことを口にし始めてから、すぐにダニーは腹を括っていた。  そのための現金は用意してある。   「もちろん、ご存じとは思いますが、中古のアンドロイドの売買には専門の古物商の許可証が必要です。もし許可証なしに販売したとなれば」  ダニーはやんわりとした脅しを込めて言葉を続けた。 「禁固七年の厳罰に処されます。それだけ、アンドロイドの販売には各方面が気を遣っているのですよ」  にこりとダニーは笑みを深める。 「もちろん、アンドロイド古物商許可証はお持ちですよね」
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