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「それはまことに残念ですね。この商売は信頼が大切ですから、先約の方とのお話があったのなら致し方ありません。
今回はご縁がなかったということでしょう」
ダニーはさっさと見切りをつけて立ち上がった。
相手は惜しみをつけようとしている。
乗って足元を見られてはこの先厄介だった。
それなりに、ダニーも修羅場をくぐり抜けてきていた。
「先におっしゃって頂いたら、双方無駄な時間を費やすことはありませんでしたのに、残念です」
にこっと笑って付け加える。
「どうか私が示した以上の額で、先約様との商談が成立しますように。祈っておりますよ」
解析システムを手に、踵を返そうとしたダニーの背に
「ま、待ってくれ!」
と声が飛んだ。
足を止めて、ダニーは次の言葉を待つ。
「まだ確約ではない。交渉次第では」
「今の金額が出せるギリギリです。それ以上をお望みでしたら、このお話はなかったことに」
ダニーは振り向いた。
「実はこの後、別のところでも『スリーピングビューティー型』のアンドロイドがあるとの情報をもらっているのです。こちらで購入できれば、キャンセルする予定でしたが、ここでご縁がなかったので次の場所へ向かわなくてはなりません。
遠方ですので時間が無駄にできないのです。
私としては、一体のみ『スリーピングビューティー型』のアンドロイドが手に入れば事足ります。即金で買い取る準備もしておりますので、別の場所での入手に期待いたします」
優雅に礼をして、ダニーは辞去の挨拶を述べた。
「それでは、ごきげんよう」
去ろうとした背に、再び声が飛ぶ。
「待ってくれ、ヘンドリクスさん。一体は間違いなくお探しの『スリーピングビューティー』だ!」
手に入るはずの大金を逃すことに、にわかにモレク・ミズラヒは焦ったらしい。
上ずる声で告げてくる。
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