Sleeping Beauty -愛しい青の物語-

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 ターコイズ(トルコ石)の中で、もっとも美しいと言われるのが、米国アリゾナ州グローブ地域にある「スリーピングビューティ・ターコイズ鉱山」から出るものだ。  特徴は、黒い網目状の模様がほとんど入らない、クリアな青い石色にあった。  ターコイズはもろく、水や酸で容易に変色するため宝石としての価値は低いが、逆に加工のしやすさから様々な宝飾品として利用されている。  ロビン(コマツグミ)の卵のような、澄んだ青い色を身に蓄えるこの石は、古くから護り石として珍重されてきた。  はるか昔に鉱山は閉じられていて新しい石が出ることはないが、それでも美しい青の色を人々は求めるらしい。    高名な人工生命体のデザイナーの一人、アレン・コートウィンも、おそらくこの石の青い色を愛していたのだろう。  彼は自身の設計した人工生命体のシリーズに、『スリーピングビューティー型』と名付けていた。  人々は、有名な童話『眠りの森の美女(スリーピングビューティー)』が由来だと思っているらしい。  だが、自分はそうではないことを知っている。  『スリーピングビューティー』の名は、爽やかな青い色の宝石に由来していた。     * * *     「『スリーピングビューティー型』のアンドロイド、ねえ」  天井のシーリングファンが、けだるげに()えた空気を掻きまわしている。  窓のない半地下の一室は、暑かった。  滴りそうになる汗を無視して、ダニーはのらりくらりと返事を伸ばす男を前に、忍耐を絞り続ける。  ダニーの苛立ちを知ってか知らずか、目の前の古物商の男はにやりと口元を歪めた。 「さて。ずいぶん古くに作られたアンドロイドですからね」  話の内容よりも、自分の手入れされた爪が気になるような素振りで、男が続ける。 「ヘンドリクスさんがお探しのものが、果たしてここにあるかどうか」
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