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奏くんはすごい。 何がすごいかって、わたしよりもうんと頭が良くていろんな"すごい"を生み出す天才だ。 わたしはそれにびっくりしながら、ただ見てるだけ。 部屋を改造した実験室をキッチンのように扱う。 掻き集めた小さな花びら。今日は青とピンク。 対象的に見えるそれも、奏くんのアイデアでは綺麗にぴしっと重なってひとつの絵になってるんだと思うと、ますます感心しちゃう。 「今度は何を作るの?」 堪らなくなってわたしは聞いた。 ワクワクが止まらないわたしを宥めるように、奏くんは可笑しそうに笑って"まだ秘密だよ"と人差し指を立てて囁く。擽られる感覚にふわふわして頬を緩ませて微笑む。"楽しみにしてるね"奏くんはそれを見て笑った。自分が一番心待ちにしてるような、優しい笑顔だった。 ビーカーのなかで揺らめく花びら。すぐに色が吐き出され煙幕になって滲んで混ざり合う。目にすっと刺さる鮮やかな紫。 「きれー」 うっとりしながら、頬づえをついて見惚れる。テーブルに乗っかったビーカーの中でぐるぐる世界が渦巻いてる。青とピンクは他人から家族になって、今ではすっかり仲良し。
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