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への字にした唇をさらにきゅっと結んでわたしは何度も何度も文字をたどって読み返した。読み返したのにさっぱりだった。
だって、わたしの誕生日は来月だもん。
変なの。
奏くんに聞こうと思い立って、玄関で靴に履き替える。"何処行くの?"って声がして振り向いたら、悲しい瞳のお母さんがいた。
わたしは奏くんの力作をお披露目する。
「これ!奏くんにもらったの!」
「…そう」
「お礼を言わなくちゃ」
にっこり笑いかけたのに、お母さんはますます悲しい顔になった。眉を寄せて泣きそうになってる。"どうしたの?"わたしが訊ねると、お母さんは静かにゆっくりと唇を動かした。落ち着いて聞いてね、って言われたばかりなのに教えてくれた情報が耳から脳に伝わった瞬間、わたしは心臓がバクバク鳴ってどんどん激しくなって落ち着いてなんていられなかった。
止められたのを振り切って奏くんの元へ向かう。いつもみたいにお隣さんの窓をコンコンした。奏くんが開けてくれないのをいいことに、今度はチャイムを鳴らす。
奏くんのお母さんが驚いた顔をして出迎えた。様子が違って元気がないのを確認すると、ますます不安になった。
何度もお願いして、奏くんの所に入れてもらった。
…でも、何処にもいなかった。
呼んだのに返事がなくて、部屋は真っ暗になっていた。
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