ランチのあとには

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『今日からお世話になる松馬星歌です!』 と、一際明るい声がインターホン越しに聞こえてきた。  “姪”ではなかったのか。ヤツは自分と同い年のはずで、上に兄弟はいなかったはずだ。それに預かって欲しいというからてっきり、小学生くらいの子が来るのかと思っていたが、インターホン越しに見るその姿は近くの高校の真新しい制服を着ていた。  成る程、と花は理解する。つまりはこう言うことだろう。この少々派手な娘はヤツとは血の繋がりはなく、なんらかの理由で両親、親族はいないようだ。そしてこの春、近くの高校へ入学するにともない、3年間ここで生活するようヤツに言われているのだ。その高校も確か私立のはずだから、ヤツが何か一枚かんでいてもおかしくはない。  姿を一目見てここまで推測できる花の頭は、彼が起きているうちに限り、とてつもなく優秀である。 『兄塚さんのお家ですよねー?あれぇ、留守なのかなー?』 と、インターホンから再び声が流れてきたので、 「少し待っててください。今開けますから。」と言って門の扉のボタンを押す。  自動で動く門に少し驚きながらこちらに向かってくる少女を見て、花は大いに驚き、先程の推測を撤回する。派手な娘ではなく、な娘が来たようだ。  制服を着ているためわからなかったが、なんと、松馬星歌と名乗るその少女は制服の後ろに、蛍光オレンジと緑のマーブル模様のティラノサウルスが大きく描かれたリュックを背負っていたのだ。さらに、 「兄さんですよねー?はじめまして!…どうかしましたかぁ?」 と、いきなり人を”兄さん”と呼んできた。 「兄塚(にいづか)だ。とりあえず、その奇抜な荷物をどうにかしてくれないか…?」    これが花と星歌の最初の会話で、つい10日前の話である。
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