ランチのあとには

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 轟音と共に消えたド派手な娘はものの数分で戻ってきて、今度は、黒地に金やら蛍光色のピンクやらが乱雑に描かれたジャージ姿で現れ、 「着替えてきましたー!そうやっていつまでも昼寝してないで早く行こ〜よ〜」 などと喚いている。 「そうだね。じゃあ出るとするか。」 図書館に行く前に星歌の服を買い揃えてから行けばいいかと、花は自己解決する。    図書館に行くとばかりの思っていた星歌はついた場所がファッションショップだったので、兄さんはとんでもない方向音痴なのかと疑った。が、隣の男は何かを気にする様子はなく、 「君は何色が好きだい?」 と聞くので、訳もわからず 「……赤?」 と答えると了解ーと言いながらそのファッションショップになんの迷いもなしに入っていくではないか。  困惑する星歌をよそに花は様々な洋服を見ているが、服のテイスト的にも値段的にも自分には関係ないと判断して遠巻きに花を見ながら買い物が終わるまで自分は自分でふらふらしていることにした。  花は俳優か何かかと思うほど女性顔負けの美しい顔立ちをしているし、長身ではあるがすらりとしていて余分な肉など少しも伺えない。  トップスなどはメンズ商品も見ているものの、レディースを多く見ているのは多少気になったが、花ほどの美形となればどんな服も着こなすのだろうか、とぼんやり考えていた。  そういえば、花の職業を星歌はまだ知らない。叔父さんの古い友達だと言うから、悪い人では無いのだろうが、この若さでこれだけの財力ともなればさぞ仕事ばかりする真面目な人か、どこかのIT社長か何かかと想像していた。ところが、星歌があの家に越してからの10日間、花は平日でも大体家にいる。かと思えば夕方にいきなり電話一本で出かけて行き、1時間ほどで帰ってきた。スマホ片手に行って帰ってきたので買い物ではないだろうと思い訪ねれば、バイトみたいなものだ、と答えそのまま自室でもう寝るという。ある休日には朝早くに出かけていき、15時くらいに帰ってきてすぐに昼寝をしに寝室へ直行したり、またある時には丸一日帰ってこないかと思ったらいきなり大荷物を抱えて帰ってきたこともあった。どんな仕事をしているか気になって聞いてみるが、彼の話は要領を得ず、依然として職業がわからないままでいた。 ーと、泣きじゃくった男の子が一人こちらにやってきた。迷子かなぁと思い 「僕、どうしたの?ママと逸れた?」 と、聞きながら顔色を見て絶句した。この年頃の男児にしてはあまりに青白い顔をしていたのだ。完全に血の気が引いている。いったい何があったというのか。男の子のただごとではない様子に星歌にも恐怖が伝染する。
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