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内心の混乱を押し隠し、大雅は適当に周りのクラスメイトに挨拶だけして、まるで逃げるように学校を出て帰宅した。
どうすればいいのか、そもそも自分が何かしていいものなのか判断がつかないままに、時間だけが過ぎて行く。
郁を好きだと気づいた。同時に、彼には別の想い人がいることも知った。しかし郁の恋──恋と呼べるものであるのなら、はどうやら一方通行で終わったらしい。
だからと言って、好きな相手の傷心に付け込むような真似はしたくなかった。
けれど、恋人ではなくても、トモダチでも。少し、──ほんの少しだけ、郁の特別な存在になれる、かもしれない……?
ふと時計に目をやると十時が近かった。
さすがにこれ以上遅くなれば、いくら家の固定電話ではないとはいえ掛けるのは失礼に当たるだろう。
大雅は思い切ってスマートフォンを手に取り、様式美のように交換したきり一度も使う機会のなかった郁の電話番号をディスプレイに表示させる。悩んでいる時間はない、という思いが指を動かした。
耳に当てたスマートフォンから呼び出し音が鳴っている。五回、六回、……。
思い直すなら今だ、と弱気が頭を過った瞬間、郁の声が聞こえた。
『……はい』
~END~
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