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第一話 さまよう白雪姫
「お母さんね、お父さんを恨んでるの」
重たい言葉には似つかわしくない笑顔で母がそう言ったのを、2年経った今でもはっきりと覚えている。
娘の私には受け止めきれない感情が、病床につく母から語られたのは、死が近いことを予見していたからだろう。
私はただ、黙って聞いていた。同調やなぐさめを、彼女は求めていない。もちろん、反論なんてありえない。
私にとってはとても優しい父だったが、母にとっては違った。それだけだろう。妻と娘という違う立場からは、同じ男がまったく別の生き物に見える。それだけだ。
だけど、今でも思うことがある。
「どうして恨むようになったのか、お父さんとの出会いから、話を聞かせてよ」
そう語りかけていたら、母は心を開いてくれただろうか。
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