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いらないひと
「今日、友達が来るの」
休日の午後。リビングで寛ぐ司に、妻が感情のない表情で呟いた。
言外に邪魔だと伝えているようで、苛立ちに任せて棘を彼女へと向けた。
「友達呼ぶとか優雅で良いよな、お前は。俺は仕事で疲れてんだけど。休日ぐらい家でゆっくりさせてくれよ」
妻は黙り込んだ。人形のように棒立ちする姿を一瞥して、わざとらしく大仰な溜め息をつき、緩慢な動作でソファから立ち上がった。
結婚して二年。後悔のみが心を占めていた。
妻はお淑やかに夫に従う女であった。意見をせず黙ったまま、責任を放棄するのだ。
交際時期は、言いなりの相手に対して優越感に浸れた。しかし今となれば面白味の欠片もない女で、苛立ちの要因でしかない。
結婚生活での鬱陶しさは十分に思い知った。
我慢した方だ。既に、愛想は尽きており別の女を娶ろうと決断していた。
予めポケットに忍ばせていた葉書サイズの封筒を取り出し、目の前に投げ捨てた。
妻は目で追ったが、触れようとすらしない。致し方ないと中身を乱雑に散蒔いた。
「これ、どういうことだよ」
数枚の写真。
妻が見知らぬ男性と二人並んだ後ろ姿が写されていた。
先日、尾行して物陰から隠し撮りした切り札である。
妻が同窓会へと出掛けた日。
もしかしたらと準備すれば、失笑する程に期待通りの光景が広がっていた。
本当に浮気したのか、久しい友人に会って談笑に花を咲かせただけなのか。
遠くから覗き見をしただけの司には分からないが、真実など興味が無い。
浮気現場に見えなくもない、それで十分であった。
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