いらないひと

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「浮気とか最悪だな」  切っ掛けの装置としては重畳。罵られた妻は、やはり黙り込んだ。修羅場で熱くなる司を尻目に無表情。  動揺するのではと期待していた司は躍起になり追い打ちをかけた。  離婚。慰謝料。次々と問題を提示し責め立て、極め付けに離婚届を広げる。  圧倒する快感に酔いしれ、鼻を鳴らした。  司が記入すべき欄は全て埋まっており、後は妻が空欄を書くのみ。  用紙を眺めて、彼女は貝のように閉ざしていた口を開いた。 「貴方は、本当に良いの?」  淡々とした口調に勿論だと頷いた。 「浮気をするような妻は、いらない」  トドメの一言。蔑みを込めた目線を、妻は真っ向から受け止めた。  感情の起伏が乏しいまま用意したペンを走らせる姿に、最後まで可愛げの無い女だと心の中で毒を吐いた。  時間は掛からず、残すは彼女の証人欄。司は不備がないか確かめようと手を伸ばした。  だが。触れることは叶わなかった。  妻が紙を奪ったのだ。呆気に取られている内に素早く仕舞い込んだ。この期に及んで抵抗するのかと眉を顰めた。 「会って欲しい人、来たわ」
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