いらないひと

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 ぽつりと呟いた彼女の顔を見て、ぞくりと肌が粟立った。  無を貫き通していた妻が、笑ったのだ。ぞっとする歪んだ微笑み。  酸素がなくなったかのような錯覚。呼吸、身動きひとつ出来ない。  凍り付き、瞬きも忘れて凝視した。  時間が止まったかのような空間。  静寂を切り裂くように時計が鳴った。二時を知らせる音がやけに大きく響き渡り、司はびくりと身体を揺らす。小さな悲鳴が自分の口から発せられた。  同時、玄関から何者かが侵入する気配。廊下を無断で歩き、リビングの扉を開く。勢い良く振り向き、人物を認識した司は、恐怖と驚きに腰を抜かした。尻餅をつく姿に、侵入者は愉しげに喉を鳴らす。猫のような愛嬌のある目が加虐的に輝いた。 「紹介するわね。最近友達になったばかりで」  ――貴方の浮気相手よ。  断言する妻に迷いはない。確信しているのだ。  突如襲いかかった危機に真っ白になる頭を叩き、打開策を模索する。  状況が飲み込めない、大体何故彼女が妻を知っているのだ。 「あんたが寝てる間に携帯を見ちゃったの。既婚者とか初耳で、マジで焦った」  軽い口調で浮気相手の彼女に説明される。  覗くなど最低な行為だと声を荒らげるが、嘲りの笑い声で吹き飛ばされた。 「お嫁さんに事情を話して謝ったら、騙された貴方は悪くないって言ってくれて」
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