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意味がなければ賞はない
賞に関しては、結果的に受賞しなかった。それが毎年のように続いている。期待してくれるのは大変にありがたいことには違いなかったが、それも発表までの数か月の騒ぎで、エム氏が受賞しなかったと分かるや否や、冷水でもかけられたみたいに盛り下がる。それきり急に噂が途絶えるのは、くしゃみが治まったことで分かるし、新しい話題にすぐ気が移るのは世の常だから気にしてはいない。ただ毎年繰り返すのだけは勘弁してほしいと思う。だからという訳ではないが、彼は海外に移住していた。本国での季節は今ごろ秋のはずだ。
エム氏自身としては、受賞してもしなくてもどっちでもいい。人間だから褒められれば嬉しいが、そのために書いている訳ではない。書くことが好きだからやっているだけで、自分自身を楽しませるために作っているようなものかもしれない。結果として出来上がった作物を、他に楽しんでくれる人がいてくれるから続けているのだと思うし、その関係性があれば他には何もいらないとすら思う。
では賞を受けないと言えばよいではないかと言われるかもしれない。けれどもバーナード賞の候補者は公式には発表されず、実際のところエム氏はそもそも名前すら挙がっていない可能性もあるのだ。そこに自分からわざわざ、もし賞をくれるつもりでも要りませんからと申し出るのは、自意識過剰のようにも思えるし、くしゃみがきついので公式に発表してくださいとも言えない。そして誰が候補者か分からないからこそ、世間では噂のしがいもあるのだろう。
結局のところ、エム氏は耐えるしかないのだ。缶ビールを開けて、ほろ苦い液体を一口飲むと、作り直したパスタを食べた。茹ですぎて歯ごたえがなかったが、やはり耐えるしかなかった。
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