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アフターダーク
吉報は電話でもたらされた。バーナード賞の審査委員長という人物から、エム氏に文学賞を授賞したいとの知らせがあったのだ。
「ありがとうございます。謹んで受けさせて頂きます」
と、彼は答えた。素直に嬉しいと思った。けれどもその感情が、賞を贈られたことに対してなのか、来年からくしゃみに煩わされないであろうことに対してなのかは曖昧だった。たぶん両方なのだろう。エム氏は缶ビールで祝杯をあげた。
すぐにビールを吹き出した。くしゃみの発作が始まったのである。薬の効果は切れていなかったはずだが、あまりの噂の多さに、抑えきれなくなったのだろう。一度に何度も使ってはいけないと医者に言われていたが、緊急事態である。三回分を噴霧してようやく治まった。
油断していたと思った。しかしこれも受賞式までだ。それが終わればぱたりと途絶えるはずである。地獄も今年限りだ。エム氏はさすが忍耐の男だった。
けれども噂はそれから数年治まらなかった。
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