0人が本棚に入れています
本棚に追加
プロローグ
やあ、オレはライネス。今日も転校したシゲサトのことをこれっぽちしか考えずに、のんびり下校中だ。
ふと見ると、麗しのマドンナアンナが、変な連中にさらわれようとしている!
「てめえ、どこ触ってんだ! ブッころがすぞ!」
するとアンナはPKビルドアップという、筋力を増加する超能力の一種を使い、身の丈三十メートルほどのレディに大変身した。
アンナは国中が震えるほどの大声で吠えた後、一発だけパンチを放った。
核爆弾の半分ほどの威力があるパンチだから、アンナをさらおうとした奴らは当然のごとく、髪の毛一本も残さず消し飛んだ。
オレは空を見る。
「ああ、今日もいい天気だなあ」
1
その日もオレは、道を歩いていた。
別に約束の地を目指している訳ではない。ただの散歩だよ。散歩。
というか、宇宙人の一件から少しの期間、ジム……じゃなかった、サイキック研究所を休んでいた。
ただ単に行くのが面倒くさいってだけなんだけどね。
そんなオレも、ついにナイトの称号を得た。しかもこの国最高の騎士、「インペリアルナイト」の称号だ。これからは「インペリアルナイト」としての活動がメインになっていくだろう。
それにしてもおいしかったなあ……帝国観光ホテルのインペリアルヴァイキング。特にローストビーフがうまかった。
「オレ、インペリアルヴァイキング行ったんだ」
って言ったら、友人のノッチがその栄誉をたたえてくれたんだ。
「今日からライネスはインペリアルナイトだね」
なんて形で称号を得たわけだが、持つべきはいい友人だね。
ふと路傍を見ると花が咲いている。まるでオレのインペリアルナイト就任をたたえているようだった。
そしてオレは、初夏の陽気を楽しみつつ、四号マンションの裏を歩いていた。
すると、路傍で誰か倒れている。
この辺で有名なプーのジェフだろうか?
プーとはプー太郎のことだ。今風に言うと、住所不定無職というヤツだ。ホームレスと言った方がはやいのかな?
「おい、ジェフ、大丈夫か?」
既にジェフと決めつけて、オレは倒れているヤツのところへ行く。そして、うつ伏せに倒れているその人物を仰向けにしてやった。
結論から言う。プーのジェフではなかった。
「オビ・ケン先生!」
それはオレの通う小学校の男性教諭だった。酒浸りで、家庭訪問の時も酒臭い口で家までやってきたと、評判の先生だった。
「ボウヤ」
唐突に話しかけられたオレは、驚いて後ろを見る。
「ドコカラキタンダイ?」
片言で話しかけてくるそいつは、この辺じゃ見たことない人間だった。
このピースアイランドから遙か遠方にある、ビックフォレストタウンの人間だろうか? まあ、風貌からして人さらいか人買いだろう。
「この辺の人間ですが」
「ニポンジンノトコナンダロ?」
「オレはこのピースアイランドの大地の子です。それよりこの酔っ払い教師、オビ・ケンをなんとかしてください!」
「カワイソニーヤセホソチャテー」
それは筋肉が無くなって痩せてきたということだろうか? ボディビルダーならショックな一言だが、インペリアルナイトであるこのライネスさんには、あまり効果の無い言葉だ。
「オジサンガ、ナニカ、テベセセテヤルカラ。テスケテヤルカラ」
それはまさかインペリアルヴァイキングに連れて行ってもらえるということだろうか?
オレはオビ・ケンを放っておき、人さらいのおじさんについて行くことにした。
「ホイデホイデェ」
言われるままにオレは、人さらいのおじさんが運転する車に乗った。
車に乗ること十数分、ビッグフォレストタウンの先にある、プラム屋敷の辺りで車が止まった。
「おじさん? ここは帝国観光ホテルじゃないよ?」
おじさんは「こっちに待合室がある」という旨を話すと、オレを鉄格子の中へブチ込んだ。
オレはしばらく待った。しばらく待って、誰も来なくて、そこでようやく気づいた。
「やっぱりあのおっさん人さらいだ!」
すぐさまオレは脱出を考え始めた。だってここは、インペリアルヴァイキングのある帝国観光ホテルじゃないのだから。
どうやらなにか始まった様子だった。というのも、上の方からなにやらドンツクドンツク音が始まったからだ。
「太鼓かな?」
合唱も始まった。インコに対する大合唱だ。もしかしたら、最近ニュースを制圧する勢いで話題になっている、「インコ真理教」とかいう宗教団体に捕まったのかもしれない。
生け贄をおインコ様に捧げているという話もあった。
池の水を抜き取り、水の代わりに液体人間を流し込んでいるという噂もある。
自らの武術の力を背景に、町で好き勝手やっているという噂もある。
ガトリング銃にグリーンピースを詰めて、発射しているという噂もある。
とにかくやりたい放題なのだ。
オレも生け贄に捧げられる前に、急いで脱出しないと。さもなくば死が待っている。
オレは鉄格子に手をかける。
押したり引いたりする。当然ながら鉄格子はビクともしない。
「無駄だよ」
オレの背後から声がした。
「君は誰だい?」
振り返ったそこには、上半身だけのロボットがぶら下がっていた。
「ボクは実験人形ビリー・オスカー」
「オレはライネスだ。インペリアルナイトのアーネスト・ライネス」
「インペリアルナイトか、大層な人が現れたモンだ」
オスカーはクスクスと笑う。
電子頭脳というヤツだろうか? オスカーはロボットなのに感情が豊かに見えた。
「アーネスト、わかるだろ? そこは鉄格子になっている。いくらインペリアルナイトといえど、その貧弱な体ではどうしようもないよ」
ちょっとむかっ腹がたった。でもオスカーが言うのももっともだ。今のオレの力では、とてもじゃないがこの鉄格子は開けない。
「でもね、アーネスト。こういう手もある」
するとオスカーは、人差し指をこちらに向け、ると、指を輝かせた。光は鉄格子に当たり、そして光は鉄格子を溶かした。
「ビームか」
「そうだよ。これは人間にはできないでしょ」
得意そうなオスカーには悪いが、相棒のシゲサトはそういうビームを放てる。転校したけどね。
「よし、オスカー、脱出するぞ!」
そう言ってオレはオスカーを背負おうとする。
「やめた方がいい。ボクはこう見えて、体重が百キロ近くあるんだから」
「百キロか。ま、かつげなくはないな」
オレはPKビルドアップを使った。アンナほど大きくなれはしないが、オレも身の丈二メートル近いマッチョダンディになることができる。
そのはずだった。
「あれ?」
何も変わっていない。その理由がすぐわかった。最近トレーニングをサボっていたからだ。くそ、こんなことならちゃんとトレーニングしておくんだった。
それでも、オレの筋力は、少しばかり上がっている。微弱ながらビルドアップの効果は出ているようだ。
なんとかオスカーを助けられるかもしれない。
オレはオスカーをおろし、背負った。
「中々のヘビー級だねえ」
「置いて行きなよ、もうすぐ信者たちが追いかけてくるよ」
それでもオレはオスカーを見捨てなかった。
受けた恩は恩で返す。インペリアルナイトは義理堅いのだ。
オレは可能な限り急いで外に出ようとした。しかし間に合わなかった。
すぐにオレたちを発見した信者たちがオレとオスカーを囲んだのだ。
そしてオレはカルマ落としと称して、ボコボコに殴られ、蹴られた。座禅の時肩を叩くあの棒の角で殴られて、別の牢屋に入れられたのだった。
サイコヒーリングを自らにかけ、傷を癒やしながらオレは決意を新たにした。
「オスカー、必ず助ける! インペリアルナイトの名誉にかけて!」
2
オレはその後も、何回か脱出を試みた。しかしその度に信者に見つかり、カルマ落としと称してボコボコにやられた。その度にオレはサイコヒーリングを自らにかける。
くそ、せめて武器に使えるバットさえあれば! オレはバットを持たずに歩いていたことを強く後悔していた。
「くそったれめ」
おっと、汚い言葉を放ってしまった。インペリアルナイトにあるまじき言葉だった。反省反省。
しかし、寝てないし食べてもないオレのサイキックパワーもそろそろ限界が近い。温存するか、それとも爆発させて一気に逃げ出すか。
逃げ出すのは簡単だ。しかしそれは一人での話。オスカーと一緒には逃げられない。どうしたものだろうか? わからない……本当にわからないんだ……。
うんうんうなりながら、檻の中で考えること数十分。やはり考えはまとまらなかった。
そしてその内眠くなってきた。ここは少し休むかな。馬鹿の考え休むに似たりって、習ったばかりだしな。
オレは地べたに横たわり、少し眠り始めた。するといいのか悪いのか、信者が二人組で、オレに飯を持ってきた。インコ食というらしい。
このつぶつぶはなんだろうか? とにかくまずそうな、それこそベチャベチャな鳥の餌のようなものを差し出された。
毒が入っている予感がしたオレは、食べずにおいた。
「チッ、食わないか」
「こんなにうまいのに」
信者はインコ食を床に置いた五秒後には、拾い上げてペロリと平らげてしまった。
そしてそのまま雑談を始めた。
「知ってるか? 例の噂」
「なんだっけ?」
「実験人形ビリー・オスカー、完成したらしい」
「マジか」
「マジよマジマジ大マジよ」
「試作型ができたと言うことは」
「そう、今度は量産だな」
「そうすれば」
「そう、不浄なこの世界を一掃できる!」
「尊師の世界になるってスンポウだな」
そのまま信者たちは行ってしまった。
なんだっそら! 耐えられない! インコ真理教は本当に危険な集団だったようだ。
だ、誰かに伝えないと! その前に逃げないと!
横になっていたオレは、信者たちが立ち去った後すぐさま起き上がる。ほんのチョッピリだけだが、サイキックパワーも回復させることができた。
と、思い出した。今回のオリは、今までのオリとは違うのだった。
オリハルコンとかいう伝説の金属を使ったオリらしい。鉄ならひしゃげることもできるが、伝説の金属となると、そうはいかないだろう。
オレはにょっきり出てきたやる気を元に戻し、また地べたに座った。
すると足音が聞こえてきた。
また信者が現れるのか、そう思った。
その拳法着を身にまとったその人物は、オレのいる檻の中へバットを入れた。しかも二本も!
フワリコロリカランコロン。そんな音を立てながらバットはオレの目の前で止まった。
「あ、あなたは」
老人はにこりと笑顔を見せる。
「老師!」
「ワシの息づかい……間の取り方……その一挙手一投足を! その目に……心に……! しかと焼き付けるのじゃ!」
と、そのまま老師は何もせず帰って行った。
老師の奥義が見られると思ったのだが、致し方あるまい。
それよりも、バットが手に入った。ならばやることは一つ。
「脱出だ!」
オレはPKビルドアップを全力で使い、自らの筋肉を膨張させた。
身長は百七十二センチメートルの細マッチョになっていた。以前のような鋼の肉体とはいかなかったが、まあここらが今の実力だろう。
何故ビルドアップできたのか? それは多分気の持ちようというか……。
とりあえずオレは、オリハルコンのオリをバットでブッ飛ばした。
これも木製のバットだからできたのだ。金属バットならひしゃげていたね。
オレはバット二刀流で、その場を後にした。ただし徒歩で。
3
「脱獄だ!」
「どこ行きやがった!」
「捕まえろ!」
「オイ、アイツラゲイダゼ」
そんな怒号が教団の道場内を駆け巡った。
探し回る信者たちから、 当然オレは逃げまわる。
んなワケ無かった。インペリアルナイトとして、逃げるわけにはいかなかった。
オレは二刀流のバットを手に、襲い来る乱暴な信者たちを切り捨てていった。
バットなのに切り捨てるとはこれ如何に? まあ、全員峰打ちで倒してるから、「切り捨て」とは言わないかもしれないな。
まあいい、そんなことはどうでもいい。
オレはどんどん前に進んで行く。もう、あと少しで外に出られそうだ。
その時だった。唐突に信者たちが道を空けた。この道を通れということなのだろうか? オレは通ろうとする。
その場にいた信者たち全員が、片膝をついたのだ。
それは「この道を通れ」でも、「どうぞご自由にお帰りください」でも、「インペリアルナイトに対する礼節」でもなかった。
道の真ん中を歩く一人の汚い風貌の男が。
「やあ、キミがライネスだね」
「誰だアンタは」
「ボクは尊師だ」
尊師という男は、神はボサボサのロングで、ヒゲもボウボウ。紫のローブを身にまとっていた。当然のように太っていて、とても威厳があるようには、カリスマがあるようには見えなかった。
尊師の前口上が始まる。
「キミは、この世界が腐っているとは思わないかい?」
その瞬間、オレは尊師の脳天に、バットの一撃を食らわせた。
するとどうしたことか? 尊師の姿がかき消えたのだ。
「残念、それはボクの化身だったんだよ」
天井に設置してあるスピーカーから、尊師の声が響いた。
そして、本物が現れた。
どこからって? 空からだよ。座禅を組んだような体勢のまま空を飛んでいるのだ。インコ真理教の教祖、尊師と呼ばれる男、「マゲン セウカウ」は空を五秒間だけ飛べるらしい。
天井があるのに空から来たとはこれ如何に? まあ実際は、尊師が信者の頭の上を通り過ぎたってことなのだがね。
「やあ、ボクが本物の尊師だ。これから、ボクと一緒に、ヴァジュラヤーナの世界へ旅立とう!」
オレはバットを構える。
すると信者が、ゴザを敷き始めた。尊師がそこへ座るのだろうか? それとも尊師を斬首する土壇場なのだろうか? かまえを解かないながらも、頭に「?」を浮かべていると、信者たちは何かカードをゴザの上に敷き始めた。
「さあ、この『インコカルタ』で勝負だ」
見たことないカルタがそこに並んでいた。「そんしそんしマゲンそんし」だの、「わたしはてんからおりてきた」だの、「よげんのせかいをつくるんだ」などと書かれている読み札。
似ても似つかないニコニコした尊師の絵や、信者たちが頑張って修行している絵札。
そんなカルタだった。
「さあ、キミも座って、武器など置いて、一緒に楽しく修行しよう」
オレはとりあえずそのカルタと尊師を見比べる。よくよくね。
そして、オレは信者が並べたカルタに向かって、バットをたたきつけた。
当たった先は「か」と書かれてあった絵札だった。
「アウチ!」
それは絵札ではなく、カルタ大統領だった。メリケン国の大統領だ。並べられていたカルタ大統領は、ムクリと起き上がると、オレに向けにらみつけた。当然オレはそれを無視する。
「オイ、こっちを見ろ腰抜け」
そこでオレの怒りはMAXになった。
「腰抜け? 腰抜けだって? 誰にも、腰抜けなんて言わせないぞ!」
カルタ大統領は、オレの腹を殴ってきた。無論、平手ではなく拳でだ。
オレの着ている服の下には、鉄板が仕込んであったので、殴ったカルタ大統領の方が痛かったようだ。
そのままカルタ大統領は、信者に連れられて退場していった。
「どうあがいても、我々インコ真理教と敵対する気なのかね?」
にじり寄ってくる信者たちに、オレはバットをかまえる。
しかしインペリアルナイトであるオレは、引かない。
「先にこのインペリアルナイト、アーネスト・ライネスに戦いを挑んできたのはそっちだからな」
オレはいつでも飛びかかれるようにぐっと身をかがめる。
「むむう、このインコ真理教にそこまで敵対するなら!」
「するなら、何だ?」
尊師はオレを指さす。
「最早この世は救えない! これからは武力で行く!」
すると、尊師の姿が消えた。
よく見れば、尊師の足下に穴が開いている。そこを通って、どこかへ逃げたのだ。
尊師が消えた後、急におびえだした信者たちは我先に逃げ出した。
地面が揺れる、何かが来る!
地下から道場の建物を破壊しつつ現れたのは、本尊のインコ大仏だ。
身の丈三十メートルはありそうなこの巨大なインコ大仏。オレ一人で勝てるのだろうか?
いや、臆してはならない。オレはインペリアルナイトなんだ。絶対負けられない戦いがここにある!
インコ大仏にオレは襲いかかる! いや、襲いかかろうとした!
インコ大仏に先に襲いかかったヤツがいるのだ。
アンナだ。アンナはビルドアップしている。インコ大仏と、どっこいどっこいの大きさだ。
どうも、遠くでオレを探していてくれたらしい。そういえば今日はアンナと遊ぶ約束していたんだった。
アンナと、インコ大仏の怪獣大決戦が始まった。この戦い。どちらが勝ってもおかしくはない!
オレはこの戦いを見届けることにした。
4
「アーネスト」
「オスカーか」
振り向いた先には下半身が付いた、完全体の実験人形ビリー・オスカーがいた。
白と紫の服を身につけている。インペリアルナイトの制服のようだった。
ちなみに、オレの服は、黒いエナメル質のジャンパーと同じ素材のズボンのみだ。シャツは着ていない。
シャツは着ていないのにカルタ大統領は鉄板を殴ったワケだ。うんうん。
この間見た時点でオスカーはロボ丸出しの体だったのに、人間と変わりない姿をしていた。
「さあ、アーネスト、ここは通してもらうよ」
「そういうわけにはいかない。ここは死守する」
二本のバットをかまえるオレに対して、オスカーは、背後から大きなカマを取り出す。そのカマは、オスカーの身長とほぼ同じだ。とてつもなく大きなカマだ。
オレはそれをかまえるオスカーを見る。「やはり手の抜ける相手ではないな」そう感じ取る。
オレもオスカーも武器を握り直し、同時にかけだした。
インペリアルナイト同士の戦いがついに始まったのだ。
怪獣たちが戦う足下で、オレたちは戦っていた。別になんてことは無いんだ。オレはただインペリアルナイトとしての責務を果たしただけだ。オスカーもまたそうだった。
リシャール殿下についたオレと、国についたオスカー。ただそれだけの話。
しかもそれは二人で話し合って決めたこと。
そう、こうなることは最初からわかっていたのだ。だからこそ手は抜かない。
でもここで疑問が出てきた。リシャール殿下って誰だろう? オレはそんな疑問を持ちながらも、オスカーと戦っていた。
一進一退、互角の攻防が続いた。
しかしここで人類と機械の差が出てきてしまった。オレはスタミナがどんどん減っていくが、オスカーは全くスタミナが減らない。おそらくオスカーには、永久エネルギー炉が搭載されているのだろう。恐るべし! インコ真理教。
「さあ、さすがにスタミナに差が付いてきたね。ボクはソーラーリアクターを積んでいるから無限に稼働できるけど、君たち人間はそうはいかない」
「ふん、まだまだだ」
オレは涼しい顔で言い返してやった。しかしスタミナの問題はいかんともしがたかった。
「自らの技術で滅びるがいい。セレスティアルビーイング」
意味のわからない言葉を吐きつつ、オスカーはカマをかまえ直した。そして体を輝かせ、辺り一帯を吹き飛ばすようなビームを放った。
オレはそれをなんとかかわす。かわした先には、リシャール殿下……ではなく、二匹の怪獣がいた。ビームはインコ大仏に当たる。
今がチャンス! と、アンナがインコ大仏にマウント取って、ボコボコに殴りつけ始めた。
「やれやれ、これはどうもお手上げだね」
肩をすくめるオスカーに向かってオレは、頭をバットで殴った。
「痛ーい」
で、済んでいるのは彼が太陽炉搭載型のロボだからだろう。
「おれはしょうきにもどった!」
するとオスカーは、インコ大仏だったモノに向かって走り出した。
そして、残骸の中から尊師を引きずり出し飛んだ!
オレに向かってくる気か? と思ったが、そうではなかった。
オスカーは尊師を羽交い締めにし、どんどん上空へとのぼっていったのだ。
「やめろ! 実験人形ビリー・オスカー! 貴様まで死ぬぞ!」
「テンサン……シナナイデ……」
オスカーは、高度が百キロくらいになったところで、オスカーは尊師を抱いたまま自爆した。
オレはそれを見て素直に思った。
「ヘッ、汚え花火だぜ」
頬を何かが伝った。
エピローグ
あの戦いから数日が経った。
インコ真理教は、警察の介入と指導者を失ったことで、急速に勢力を縮小していった。
教団が解散するのも時間の問題だろう。
「すごいじゃん、ライネス君」
ノッチとの会話が弾んでいるように見えるが、オレはそんな気分ではなかった。
「そんなことはない、友を守れなかった。インペリアルナイト失格だ」
インペリアルナイトとして友人を助けられなかった。それだけが心残りだった。
「キミはもう、光の救世主、『グローランプー』だね」
ふっと脳裏に蛍光灯という言葉が出てきたが、多分関係ないだろう。
ともあれ、オレはこれからは「グローランプーのライネス・フォルスマイヤー」ということになりそうだ。
まったく、今日もいい天気だ。
終劇
最初のコメントを投稿しよう!