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「そういえばおじさん、まだ名前聞いてなかったよね?」
最近の出来事を話している途中、突然少女がそう言った。短くも長い日を経てきたのだが、二人は名前を知り合っていなかったのだ。初めは名乗り会う間柄でもなかったというのもあるが、今更、と男は思っていたのもあった。
「おじさんでいいよ。」
男はそう言う。
「お名前、あるんでしょ?私もガキって呼ばれたくないもん。
私は、ゆいな。おじさんは?」
今更自己紹介なんて、気恥ずかしいばかりで、男はためらっていたが、答えてくれるまで目を離さないよ、というような視線で男を見続ける少女に、男は敗れる。
「...達也。」
小さく言ったものを、少女は聞き逃さず、名前を知れたことに喜び、嬉しそうに男の名前を連呼した。恥ずかしさで顔が熱くなるのを感じながら、男は怖い顔で少女にそれを辞めさせようとする。
「これからもずっと、お友達でいてね!ね、達也おじさん!」
互いの名前を知り合ったことで、その間に立っていた何かが取り壊されたような、そんな気持ちに男はなった。楽しそうに言う少女に気恥ずかしさを隠せないものの、少女のことを以前よりも近い存在に感じた。友達にしては年は慣れ過ぎてんだろ、と素っ気なく返すが、心の内はまんざらでもなかった。男と同じように心の距離が近づいたと感じた少女もまた、さらに明るくなったようだった。
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