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それから一年が過ぎ、また別離草の花が咲く季節がやってきた。
私と弟は、二つに増えた墓に祈りを捧げた。
一つは母の、そしてもう一つは彼の墓だ。それぞれの墓の上では、別離草が咲き誇っている。
一方は赤い花で、もう一方は青い花だった。
村の言い伝えでは死者が天国にいることを示すという青い花――それが咲いているのは、母の墓の方だった。
けれど、私は知っている。本当はどうして、今年になって母の墓に青い花が咲いたのかを。
あの大雨の後、川の水位がまた下がってから、私は母が中州に埋めたものを掘り起こした。もしかしたら流されてしまったかもしれないと思ったのだが、母は思いのほか深く埋めていたようで、無事だった。
その掘り起こしたものを、母の墓に埋め直したのだ。
それは、母が神官の家から盗んだ宝飾品だった。泣きながら最後まで無実を訴えていた母は、実のところ、疑われた通りに盗みを働いていたのだ。
そのことを、私だけは母から直接教えられていた。
母は、生活に困ることがあればそれを掘り起こして村外の人間に売るよう私に言ったが、私は結局、そうはしなかった。
泥棒だった母の墓には、盗品である宝飾品のおかげで青い花が咲いた。
そして彼の墓には、死者が地獄にいることを示す赤い花が咲いた。
彼の言う通りだった。
どちらの色の花が咲くかなんて、地中の軽銀に左右されるただの自然現象に過ぎなかったのだ。
そうではなくては、人の命を救って自らは命を落とした、何も悪いことをしていない彼の墓に、赤い花が咲くはずがない。
私はそっと涙を拭うと、弟を促して立ち上がった。
その途端、背後から声をかけられた。
「いやー、弟君の方もちゃんと無事だったか。良かった良かった」
振り返った私は、呆然と目を見開く。
「ずっと気になってたんだけど、医者はなかなか外出を許してくれないし、このあたりは未だに電話どころか郵便すら届かないから……」
何ごとも無かったかのようにそう言って笑う彼は、そこでようやく、一つ増えている墓に目をとめた。
「こっちの赤い花が咲いている方は、すごく悪い人のなの」
私は泣き笑いの顔で、そう説明する。
「なにしろ、私を一年も悲しませたんだもの。赤い花が咲くのも、当然でしょう?」
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