プラセボ

「これで50代男性の半年経過分、1万人目のサンプルが取れましたが結果は30代、40代と変わらずですね」
トントンと手に持った資料の角を揃えながら看護師で助手である下田が言った。
「そうか、詳細は？」
「適当な病名をつけた健康な50代男性において、症状発現者が9189人、先生の誘導通りに症状が変遷した者が8173人、プラセボのブドウ糖を飲んで症状が改善した者が5982人、ブドウ糖で副作用が出現した者が2519人となっています」
「うーむ、基礎疾患も何も持たない全くの健康成人でさえこのような結果が出てしまうとは。特に日本人は流されやすくていけない。病は気からとはよく言ったものだな」
「そうですね」
「何でもかんでも病気として病名をつける世の中も困ったもんだな。早速論文にして発表しよう」

論文依存症候群の中野医師はそう言ってパソコンの前に向かった。